不祥事や惨事が発生する度に、ロシア側はその犯行を否定し、全てをウクライナ側、そして西側の仕業とうそぶいてきた。そして今回のダム決壊でも同じだ。ゼレンスキー大統領が激怒したのも理解できる。
ちなみに、ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー大統領は9日、岸田文雄首相と電話会談し、今回のダム決壊について、「侵略者は大規模な人為的、環境的、人道的大惨事を引き起こした。これは意図的なテロ行為であり、ロシアのもう一つの戦争犯罪だ」と強調している。岸田首相はウクライナ国民への連帯を表明し、人道支援を約束すると共に、「来年初めに日本でウクライナ復興に関する会議を開催する用意がある」と改めて確認している。
ウクライナ戦争ではこれまでも類似した出来事、惨事が発生してきた。ロシア軍は軍事関連施設ではない病院にミサイル攻撃を加え、逃げ回る住民を射撃するなどを繰り返してきた。今度のダム決壊で、ロシア軍の戦争犯罪行為に新たな蛮行が加わった。
ウクライナ戦争ではもはや紛争国間の通常の停戦交渉、和平交渉は考えられなくなった。少なくとも、プーチン大統領が生存する限り、停戦交渉はもはや非現実だ。洪水で逃げ惑う住民の地域にミサイル攻撃を続ける指導者に対し、ウクライナ国民だけではなく、世界はもはや交渉の相手にしないだろう。残念ながら、軍事的解決しかロシア側をウクライナから撤退させることができなくなってきたのだ。
ゼレンスキー大統領は10日、ロシア軍が占領しているウクライナ東部、南部への軍の大規模な反転攻勢を開始したことを認めている。戦いはこれまで以上に激しくなることが予想される。
なお、ロイター通信によると、プーチン大統領は9日、隣国ベラルーシで戦術核兵器の貯蔵施設の準備が7月7~8日に整った後、直ちに配備を始めると明らかにしている。
北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談が来月11日、12日の両日、リトアニアの首都ビリニュスで開催される。そこではウクライナのNATO加盟問題が大きな議題となる。それに先立ち、プーチン大統領はウクライナを支援するNATO加盟国を威嚇する狙いがあるのだろう。プーチン氏が核兵器をもてあそぶことがないように祈りたい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。