人間の記憶を担当するのは頭脳の中の海馬という領域だ。認知症はその海馬の機能に支障が起きる病だ。最近、認知症の進展を抑えることができる画期的な医薬品が製造されたというニュースが流れていた。アリセプトやイクセロパッチなどの医薬品を摂取できるが、それよりも母国語以外の外国語を多く学び、頭脳の中の言語スペアを増やしておくほうがいいのではないか。少なくとも、副作用を心配する必要はないうえ、経済的にもメリットだ。

学生時代から記憶力が良くなかったこともあって、記憶力のいい人に出会うとそれだけで尊敬心が湧いてくる。同時に、人間の「記憶」ということに強い関心がある。人間の記憶には選択姓が働いていること、忘却も記憶を保存するうえで重要な働きがあるという。コンピューターの消却機能は記憶すべき情報を保全するために必要な機能というわけだ。

「記憶」といえば、エピジェネティクスという言葉がある。DNAの配列に変化はなく、細胞の分裂後にも継承される遺伝子に関するもので、「細胞記憶」と呼ばれている内容だ。例えば、恐怖心はその人間が遭遇した体験に基づくが、その心理状況が直接体験していない後世代にも継承されるという。「細胞が記憶している」というわけだ。その詳細なメカニズムはまだ解明されていない(「『細胞』は覚えている」2013年12月5日参考)。

参考までに、独週刊誌シュピーゲル(5月13日号)はフランス人の睡眠研究の権威者、スタンフォード大学睡眠科学・医学スタンフォードセンター所長エマニュエル・ミニュー氏(Emmanuel Mignot)とのインタビューを掲載していた。同氏は「睡眠」が如何に重要かを述べていた。

短い睡眠で大きな成果を上げた人間が尊敬されるような雰囲気が一部にある。フランスのナポレオン皇帝は1日4時間、レオナルド・ダ・ヴィンチは1日1時間半しか眠らなかったとか、チンギス・ハーンは騎乗している時ですら眠ることが出来たなど、偉人と睡眠時間についてはさまざまな伝説が報じられているが、ミニュー氏は「睡眠はスポーツのようなもので、よく眠ることは健康に繋がると理解すべきだ」と述べていた。記憶力を維持するためには十分な睡眠時間が欠かせないのだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。