防衛装備移転三原則は第2次安倍政権下の2014年に制定され、それまでの「武器輸出三原則」で事実上禁じられてきた武器輸出を可能にした。ただ、具体的なルールを定める「運用指針」では、「安全保障面での協力関係がある国」に対し、「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の「5類型」に限っている。/このため、殺傷能力があったり、物を破壊したりする自衛隊法上の「武器」は輸出できないとされてきた。(中略)
自民、公明両党は4月、見直しに向けた実務者協議を始めた。14年の三原則の策定に携わった東大客員教授の高見沢将林・元内閣官房副長官補が5月16日の第4回の与党協議に出席し、「当時は自衛隊法上の武器も入る前提で議論していた」と証言。日本にとって重要なシーレーン(海上交通路)の安全確保のため、武器を含む装備品の輸出も念頭にあったと説明した。実際には、武器輸出に慎重な公明党が「輸出対象の範囲が広すぎる」と反対し、5類型に絞り込まれた。高見沢氏は朝日新聞の取材にも「自衛隊法上の『武器』が入る前提で議論したからこそ、公明党から指摘があったのだろう」と話す。
24日に国会内で開かれた第5回の与党協議。冒頭のあいさつで、座長を務める小野寺五典・元防衛相は「殺傷能力があるものは一切、装備移転できないと今まで思っていた」と強調した。ある自民党議員は「今の運用指針でも自衛隊法上の武器を出せると分かったのは大きい」と、輸出のハードルが下がったことを歓迎する。現在の運用指針に新たな「類型」を加えるだけで、殺傷能力のある武器が輸出できるとみる。
たしかに三原則や運用指針には殺傷能力の有無に関する規定はない。浜田靖一防衛相は6月1日の参院外交防衛委員会で「防衛装備移転三原則および運用指針においては殺傷能力のある兵器の移転が可能か否かについて言及されていない」と強調した。
歓迎すべき「見直し」だが、ならば、今までの〝自主規制〞はなんだったのか。そうした脱力感にもかられる。
いずれにせよ、これで終われないのが、朝日新聞。記事は続けて、「平和国家の信頼、無駄に」と鉤括弧付きの中見出しを掲げ、こう書いた。
ただ、移転三原則の前文には「平和国家としての歩みを引き続き堅持」と明記されている。運用指針の解釈変更による武器輸出の拡大はこうした理念に反し、三原則の「形骸化」につながる懸念がある。公明党内には殺傷能力のある武器の輸出には慎重論が根強く、与党協議はまだ有識者から意見を聞いている段階だ。当初は6月21日の国会会期末までに結論を出すとの声が自民党内にあったが、難しい状況だ。
結局、ぬか喜びではないか。しかも、朝日記事は、「学習院大の青井未帆教授(憲法学)」の以下コメントで締めた。
「三原則に記述があるか否かという以上に、『日本が輸出した武器で人が死ぬのはおかしい』という規範が共有されてきたはずだ」、「これまで積み重ねてきた平和国家としての信頼を無駄にするようなもので、受け入れがたい解釈だ」
ならば、青井教授に問う。外国が輸出した武器で人が死ぬのはおかしくないのか。日本やスイスが武器供与しない結果、多くのウクライナ国民が死ぬのはおかしくないのか。連日報道される惨状に、心が傷まないのか。「これまで積み重ねてきた平和国家としての信頼」というが、湾岸戦争で資金提供しかできなかった日本は「信頼」どころか、「感謝」すらされなかったではないか。
彼女らパシフィスト(反戦平和主義者)が掲げる「平和」とは、いったい何なのか。少なくとも、日本国民が「誠実に希求」すべき「正義と秩序を基調とする国際平和」(憲法9条)からは程遠い。