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その走りはまさに「蝶のように舞い、蜂のように刺す」
1998年メディア対抗ロードスター4時間耐久レースの男泣き

その走りはまさに「蝶のように舞い、蜂のように刺す」

「負けられない戦いと“ロードスター・リボーン”」どん底から最高傑作へ…マツダ 2代目NBロードスター【推し車】
(画像=入門バージョンとはいえ、軽快さやドライバビリティでは1.8リッターモデルのNB8C以上と思われる傑作、1.6リッター版NB6C、『MOBY』より引用)

とはいえ、筆者も昔からそんな悟りの境地にあったわけではありません。

むしろ優雅でもなくパワフルでもない地味なロードスター、クーペやターボの限定車を作るなど、マツダもその方向性に迷いが見えるような時期のクルマで、多少走りが良くなったとしても取るに足りない存在と思っていたのが、正直なところです。

その考えを改めたのは2代目NBの生産終了から10年近くたった2010年代前半で、筆者自身が主催していた初心者向けジムカーナ風タイムアタックイベントや、地元のJAF公認ジムカーナ競技会でNBをよく見かけるようになってから。

それもほとんどが一見速そうな1.8リッター+6MTの「NB8C型」ではなく、入門マシンとして復活したはずな1.6リッター+5MTの「NB6C型」で、最初は初心者がステップアップのため安い中古車でも買ったかな、とタカをくくっていました。

しかし実際に走らせてみるとこれが実に速い!

絶対的なパワーはないので、ギャラリーを沸かせるような加速やダイナミックな動きはしないものの、狭いミニサーキットのタイトコーナーや、フルパイロンコースのターンもクルクルと軽快にこなしたかと思うと、無駄のない加速で次のコーナーへ一直線。

本当に速いクルマというのは「ストレート」でも「コーナー」でもなく「その間のつなぎ」が重要なのですが、NB6Cはそういう地味なところでキッチリ詰めるのによほど扱いやすかったようです。

ゴールしてみると派手に走るクルマよりよほど速く、場合によってはブッチギリの優勝すら珍しくないタイムに、「なんてドライバビリティに優れたクルマなんだ?!」と仰天しました。

結局のところ、「カタログスペック上でどうこうというより、ドライバーが必要とする時に必要なだけのパワーを無駄なく発揮できるクルマの戦闘力は非常に高い」という事実を再認識させられたわけです。

もちろん、長いストレートで加速の伸びや最高速も大事なコースならその限りではありませんが、そんなコースでパワフルなクルマが勝っても自慢にはならないでしょう。

歴代ロードスターがジムカーナのようなコースを走る時、全日本選手権でもなければ最も恐れるべきは、地道な練習を積み重ねた手練れが操り、熟成を重ねたNBロードスター、それも1.6リッターのNB6Cかもしれません。

1998年メディア対抗ロードスター4時間耐久レースの男泣き

「負けられない戦いと“ロードスター・リボーン”」どん底から最高傑作へ…マツダ 2代目NBロードスター【推し車】
(画像=このレースベース車NR-Aが発売されたのは2001年だが、1998年のメディア対抗戦などでは各社イコールコンディションのNBレース車で戦われた、『MOBY』より引用)

もうひとつ、NBロードスターで思い出深いのは初代NAの発売から毎年開催されている、「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」での出来事です。

1998年はその年に発売された2代目NBロードスターでの初開催でしたが、筆者も当時愛読していた「Tipo」誌のパドックパスが当選し、同志の読者応援団として筑波サーキットへ赴きます。

その年の「Tipo」誌は、関係が深いレーサー、太田 哲也選手がフェラーリF355GTで挑んだ5月のJGTC(全日本GT選手権)第2戦、多重クラッシュに巻き込まれ爆発炎上したマシンに90秒ほど取り残され、大火傷などで死線を彷徨うという衝撃的な出来事がありました。

様々な不手際に不運も重なり、裁判にまで発展した事故でしたが、「Tipo」誌でも特集を組んで事故の真相を追求するとともに、一命を取り留めた太田選手へ何としても吉報を届けるべく、メディア対抗ロードスター4時間耐久レースの必勝を誓います。

同レースでは太田選手も「Tipo」チームで参戦、1996年の優勝やその他の年でも上位入賞へ貢献するなど、単なるメディアとレーサーの関係に留まらなかった太田選手に対するTipo編集部の情熱は、一読者の想像を超えていました。

レースは例年通り白熱した戦いとなりましたが、「CAR GRAPHIC」チームと最終周までもつれる争いを制したのは、太田選手を欠きながらも奮闘した「Tipo」チーム!

よっしゃやったぞ!と歓喜に包まれた読者応援団はパドックへ殺到しますが、そこでは…相手は病院の太田選手でしょうか、途切れ途切れの涙声で「太田さん…勝ちましたよッ…!!」と携帯電話を握りしめて報告、顔をクシャクシャにして号泣する同誌スタッフたち。

世界選手権でも全日本選手権でもなかろうが、何としても負けられない戦いに勝った者たちが男泣きに泣いて肩を叩きあい、それを遠巻きにして静かに、暖かく見守る読者応援団という優しい光景は、25年経った今でも鮮明に覚えています。

夕闇に包まれつつある筑波で、ヘッドランプを点灯させながらチェッカーフラッグを受けたNBロードスターの勇姿は、その後の劇的なシーンとともに、いつまでも忘れないことでしょう。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

文・兵藤 忠彦/提供元・MOBY

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