ビジネス倫理にもとる行為

 一般的に就活生向けセミナーではサクラ行為は広く行われているのだろうか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏はいう。

「リクルートが学生に成り代わるサクラ行為を頻繁に行っていることを初めて知った。企業の会社説明会でもサクラを使うのは聞いたことがない。おそらくコロナ前のリアルのセミナーではサクラを使って質問することはリスクがあったが、オンラインセミナーになってから、誰が発信したかわからないチャットを使っての質問に変わり、サクラを使うことの罪の意識が薄れ、誘発してしまったのではないか」

 では、サクラ行為を行う目的は何なのか。

「朝日記事でリクルート広報のコメントに『オンラインセミナーは質問しづらい雰囲気になりがちなことが課題だった』とある。セミナーを盛り上げ、成功させるには、一方的な説明だけではなく、学生との質疑応答などの双方向のやりとりが不可欠になる。クライアントである大学の評判・評価を勝ち取るために、何としてでもイベントを盛り上げたいという目的があったと思う」(溝上氏)

 こうしたサクラ行為は、倫理的に問題ない行為といえるのか。

「倫理的あるいはビジネスとしても決して許される行為ではない。リクルートの大学支援推進部(現・学生キャリア支援推進部)の社員が『インターンシップは何件ぐらい行ったらいいですか』という質問を書き込んだとある。インターンシップサイトの運営はリクルートなど就活支援サイトの主事業であり、多くの学生を集める必要があるが、まさに質問と回答の自作自演によってビジネスの利益に直結するように誘導することも可能だ。学生にとっての利益や主体性をないがしろにしたビジネス倫理にもとる行為だと思う。

 仮に学生の本音を引き出すなど、学生本位のセミナーにするのであれば、質問が出ないことが想定されれば、事前に参加申し込み学生からアンケートを実施して、質問を聞くことも可能だったはず。サクラの社員から質問を受けるということをやれば、顧客の意見を無視したネット通販のCMとなどと変わらなくなってしまうのではないか。主人公の学生を無視し、学生本意、顧客本意の視点が欠如したビジネス姿勢を早急に見直すべきだと思う」(溝上氏)

 こうしたサクラ行為は、法的に問題ないのか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「世の中の、いわゆるサクラ行為については、お金が絡むものではない限り違法となることはほぼありません。今回のリクルート社員が学生に扮して質問をするのも、場を盛り上げる、学生が質問をしやすい環境をつくる、学生のために変わりに質問をして情報を共有する、といった目的でのことでしょうから、特段、違法性を帯びることはなさそうです」