ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、農作業の省力化・精密化や高品質生産を推進している新たな農業形態「スマート農業」が注目されている近年。

最近は、農作業時に腰の負担を軽減するアシストスーツや、AIを活用したデータツールなどが農家で取り入れられています。

そこで今回は、株式会社イノフィスの取締役である依田大さんに、スマート農業を取り入れた事例について寄稿していただきました。

いちご農園を営む都竹大輔さんが、生産から販売まで一貫したスマート農業を展開し、高収益いちご経営を実証する取り組みについて解説していただきます。

甘くて美味しいいちごの裏に隠れた「いちご栽培現場の過酷さ」

2023年3月~4月は全国各地でいちごの収穫が最盛期を迎え、スーパーには1パック300円台とリーズナブルな価格のいちごがたくさん並びました。

甘くて美味しいいちごの人気は昔から衰えることなく、高級品種では1粒1万円を超えるものも。その魅力から新規参入の多い作物でもありますが、一方で農家の間では大変栽培が過酷な作物としても知られています。

茨城県常陸大宮市でいちご農園を営む都竹大輔さんは、30代前半で脱サラし、「つづく農園」を始めて20年近く。妻の友美さんと5人のパートさんと共に、いちご栽培・直売所・いちご狩り園を切り盛りしています。

つづく農園での栽培方法は、昔ながらの「土耕栽培」。高額な設備が必要なく、香りと味の濃いいちごを作ることができるため、いちご農家の中では最も多い栽培方法です。

土耕栽培では、夏場の苗植えから4月の収穫作業までのほとんどを中腰姿勢で行います。常に腰を曲げている状態のため、一定時間をおいて何度も「腰伸ばし」の時間を取らないと身体がもたないそうです。

ほぼ1年中腰痛に悩まされることから、「いちご農家を辞めるか、高額投資をして高設栽培に切り替えるか」の二択を迫られるいちご農家も多いといいます。

妻の友美さんは「ただただ我慢の連続で、腰を伸ばすために休憩しないといけない時間がかなりありました。それでも次の日に疲労が残ることがあり、いちご農家を長く続けていくことへの不安は常にありました」と仰います。

ご夫婦は、いちごの味を落としたくない、土耕栽培にこだわっていちご農家を続けたいと悩んでいました。

アシストスーツで年間労働時間を130時間削減。地元の雇用維持にも

転機となったのは、茨城県農業総合センター園芸研究所からの依頼。都竹さんが農林水産省スマート農業実証プロジェクト「新しい時代を切り開く直売型スマートイチゴ生産・経営モデル実証コンソーシアム」に参画したことに始まります。

スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、農作業の省力化・精密化や高品質生産を推進している新たな農業形態のことです。

日本の農業の現場では、依然として人手に頼る作業や熟練者でなければできない作業が多く、省力化、人手の確保、負担の軽減が重要な課題となっています。先端技術を活用することで、省力・軽労化と新規就農者の確保や栽培技術力の継承などが期待されています。

都竹さんはいちご農家として、生産から販売まで一貫したスマート農業を展開し、高収益いちご経営を実証する取り組みを目指しました。

どんなかたちのスマート農業を実証するかをご夫婦で話し合い、実証調査に導入したものの一つが、腰の負担を軽減するアシストスーツ「マッスルスーツEvery」でした。

「マッスルスーツEvery」は、中腰姿勢を保つ、重い物を持ち上げるといった作業時に腰の負担を軽減するアシストスーツです。圧縮空気を使用した人工筋肉が動作をアシストします。

(引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000041785.html)

プロジェクトを通して1年間活用を続けたところ、農作業中に腰を伸ばすための時間が減り、中断せずに連続して作業ができるようになりました。収穫作業にかかる時間が減ったことで、労働費削減・労働効率がアップ。年間130時間の労働時間の削減効果が実証されました。

つづく農園の都竹友美さんは、「導入するようになってからは、パートさんたちが疲労で休むことが減りました。急に人手が足らなくなっても、収穫は待ってくれないので、以前は慌ててシフトを調整しなければならないことがあったのですが、そんなことがずいぶん減りました」と、腰の負担以外の効果があったと仰っていました。

このように、従業員が働きやすい環境を作ることは、地元の雇用維持にもつながるでしょう。