たまたまなのでしょうが、同じ日にふたつの「仮想」に関するニュースが話題となりました。1つはアップル社が来年に発売するヘッドマウントディスプレイ。長い名前ですが、要はARやVRを楽しめるゴーグルで、予定価格は3499㌦、ざっくり50万円です。
ライバル会社であるメタやソニーが今年発売するものは7万円台です。ちなみにソニーのプレイステーションが定価6万円台、スマホの値段が十数万円と考えればメタやソニーのヘッドマウントは妥当価格である一方、アップルのそれはお高いと思います。スペックやソフトがわからないのでそれの善し悪しのコメントはできませんが、アップル社としてはよほどの自信作の製品投入であるとみています。

アップルのApple Vision Proの没入感 同社HPより
どのメーカーのものにしろ、ヘッドマウントは全般的に大躍進を遂げるであろうことは断定できます。我々の生活、企業活動を含め、社会の在り方を一新する可能性すらあるとみています。スマホが世に出て産業界が大きく変貌し、人々はトイレにすらスマホを握りしめて行く時代まで進化したのです。その向かう先のキーワードは「全知全能」だと思います。
もう1つの「仮想」はアメリカ当局が必死になって潰そうとしている「仮想通貨」です。一時期「暗号資産」に名称を変更すると言われましたが、結局表記は仮想通貨と併記になっています。余談ですが、なぜ、「仮想通貨」ではなく「暗号資産」かといえば通貨は流通するものであるが、そうではないと否定したい日銀が設定したものです。ところが英語ではcrypto currency というのが標準的な表記です。cryptoとは暗号でcurrencyは通貨ですのでこれを訳せば「暗号通貨」となり日本語の「仮想通貨」と「暗号資産」を足して二で割ったような名前です。
今般SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)が世界最大の仮想通貨トレーディング会社であるバイナンスと同社の創業者、チャンポンジャオ氏を、またSECはその翌日にアメリカで唯一の上場仮想通貨トレーディング企業、コインベースを取引不正を理由に告訴しました。この告訴はほぼ予定通りだったので驚きはしないのですが、SECやCFTCが窓口となり、仮想通貨潰しをトコトンやるという姿勢を見せています。
なぜ、アメリカは仮想通貨がお嫌いか、と言えば基軸通貨、米ドルの足元を揺さぶるからです。今まではアメリカが好きだろうが嫌いだろうが、世界共通に使えるのは米ドルが圧倒でした。南米やロシア、中東に行ったら米ドルがどれだけ便利かお分かりになるでしょう。しかし、世界全てがアメリカを愛しているわけではないのでアメリカ政府保証の通貨をなぜ外国で使うのか、と言われれば困るのです。つまり、究極的には「ドルに代わる通貨が欲しい」でした。
そこで仮想通貨が世に出てきたことで様々な使い方ができるようになります。が、こちらは上述のヘッドマウントと違い、歴史がもう少し長く、かつ、世間をたびたび騒がしてきています。結果として「こんな制御不能なものは懲らしめる」というスタンスがアメリカの国策に近いのではないか、と見ています。
識者の見方は完全に分かれます。まるでEVと内燃機関の自動車のような議論です。つまり結論ありきの話なので折り合いはなかなかつかないというのが現状でしょう。
さて、ふたつの「仮想」にはある意味、興味深い共通点があります。それは「仮想」という世界を人々はなぜ、求め始めたのだろうかという点です。今までの人間社会では人が動き、活動することでモノが生まれ、生活をする基本形でした。この当たり前が当たり前ではない世界の入り口に立つのが我々の現在の居場所なのです。