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LGBT法案を巡るエマニュアル駐日米大使のツイートや政治家らへの働き掛けが、内政干渉に当たるのではないかとの疑念を惹起させている。

内政干渉については、国際法でも、例えばジェノサイドの様な国民の生命を脅かすほどの国家による人権侵害がある場合、外国による被害者救済介入が許されるとの学説がある。被害者を助ける術が他にないからだ。が、日本のLGBTに係る目下の状況がその様な事態にあるとはとても言えまい。駐日大使による日本への内政干渉は許されるべきでない。

そもそも駐日米大使は、派遣国たる米国の国家元首バイデン大統領から信任状を託されて、接受国たる日本の元首天皇陛下にあてて派遣され、陛下に信任状を直接奉呈することによって受け入れられた特命全権大使だ。その米国大使がこうした内容のツイートを軽々にすること自体、米国の品位を貶める行為ではあるまいか。

エマニュエルは、21年6月にバイデン政権のLGBTQI+特使に任命されたジェシカ・スターンが2月8日に公明党の山口代表と面会した際に同席した。6月5日の国務省発表は、翌6日にカナダを訪問する同特使の責務を「LGBTQI+の人たちの人権尊重を共同で推進するためのコミットメントを話し合う」こととしているから、同特使の存在自体がこの問題で他国に内政干渉するため、と言えなくもない。

同大使が同じシカゴを地盤とするオバマ元大統領の人脈に深く連なることには、21年8月の拙稿「次期駐日米大使は本当に日米同盟重視の表れと言えるか」で言及した。そこではオバマ政権の副大統領バイデンがなぜエマニュエルを駐日大使にあてたかにも触れたが、後には彼の「ランボー」振りに手を焼いて日本に隔離したとの説も、「ありそうだ」と考えていた。

が、今回のLGBT騒動での彼の振る舞いを見るにつけ、バイデンにはこんな思惑もあったのか、と思い直しつつある。それというのも、米保守紙「ワシントン・フリー・ビーコン(WFB)」が3日、「バイデン国務省、イラクでの気候変動対策とジェンダー教育に数百万ドルを投じる」との見出し記事を報じたからだ。

記事に拠れば、バイデン政権の国務省は5月15日、イラクの大学3校に各400万ドルの助成金募集要項を掲載したという。要項には、受給者は「ジェンダー問題」と「気候変動の影響への適応と緩和」を中心とした「研究分野、コース提供、および/または専攻」を展開する必要があり、更に助成が認められたプログラムは「進歩的:progressiveなカリキュラム」を有し、「イラクの高等教育機関の学生の多様性を米国式に強化する」必要があるとされている。

これについて、ペンス前副大統領の所属するヘリテージ財団のサイモン・ハンキンソン上級研究員は、「外交や援助を通じて米国の考えを外国に輸出しようとする今のワシントンの取り組みの典型」であり、「性自認(Gender identity)とジェンダー表現(gender expression)は、米国の文化戦争の中心であるのに、自らがどこまでやるか合意する前に、生煮えのまま輸出している」と「WFB」に語っている。

そのペンスは現地時間3日、アイオワ州共和党議員の年次イベントで、共和党は「保守主義に基づく」国の前向きなビジョンを提供し、「厳しい真実を話す」とし、「人格の政治や、時代を超えた保守の原則から切り離されたポピュリズムのサイレンの歌(siren song of populism)に抵抗しなければならないと思う。生命と自由、自由への固執という保守のアジェンダにしっかりと立ち、常に私たちを勝利へと導いてきた」と述べた。

話を助成金に戻せば、その全資金の40%は、イラクにおけるジェンダー平等を促進するため、「イラクの女性のために直接的に役立てられなければならない」とされる。だが、国務省のジェンダー平等の推進への取り組みは、生物学的な女性に限ったことではない様だ。

ハンキンソンは、助成金資料の双方向ビデオリンクにある、国務省がジェンダーを「社会的構築概念:socially constructed」と定義する箇所に例示した「agender, neutrois, bigender, butch, gender expansive, genderfluid, gender outlaw, genderqueer, nonbinary, omnigender, polygender, pangender, or Two Spirit」について、「イラクがそれらを自認する学生や教員を抱えているほどHip(進んでいる)とは思えない」と揶揄している。