また、ウィーンのコーヒーハウスでは昔、ビリヤードやチェスを楽しむことができたが、今ではウィーン市内でビリヤードできるコーヒーハウスは限られている。米国のスターバックスが進出して以来、伝統的なウィーンのコーヒーではなく、若者が好むようなモダンなスペースや各国のコーヒーブレンドを楽しめる洒落たカフェに人々が集まるようになった。
「コーヒーハウス」は待合場所であり、談笑する場所として好まれる。その点は今も昔も同じだ。昔は著名な小説家や芸術家たちがコーヒーを飲みながら談笑する風景がみられた。作曲家シューベルトは「カフェー・ミュージアム」で友人たちと談笑し、時には作曲したばかりの音楽を演奏したものだ。今はそのような風景は期待できない。
ウィーン商工会議所のウィーンコーヒーハウス専門家ヴォルフガング・ビンダー氏によると、ウィーンでは毎年、10軒のコーヒー店が閉鎖に追い込まれれば、新しい10軒のコーヒー店がオープンする、という。コロナ禍の影響で閉鎖に追い込まれたのは全体の最大3%と推定されている。昨年、ウィーンには1666軒の「コーヒーハウス」があったが、そのうち206軒が閉鎖に追い込まれ、167軒の新しいコーヒー店が開いた。ウィーンでは昨年、「コーヒーハウス」が39軒減ったわけだ。
ちなみに、戦前から戦後にかけて活躍した流行歌手の霧島昇さんの歌の中には「一杯のコーヒーから」というヒット曲があった。昭和14年の歌謡曲だ。一杯のコーヒーから「夢の花咲くこともある」という歌詞を聞いて、コーヒー一杯から夢が広がるような時代があったのだと懐かしく思った。21世紀の「一杯のコーヒー」からどのような夢が飛び出してくるだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。