中国武漢発の新型コロナウイルスのパンデミックの2年半、客は来なくなり、店を閉じた。国のコロナ対策支援金でかろうじて生き延びてきた。そしてコロナ禍が終焉して、ようやくゲストが戻り出したかと思っていた矢先、今度はロシアのウクライナ侵略でエネルギー価格、物価高騰だ。エネルギーコストは前年の約5倍に急騰する一方、インフレと人員不足は深刻だ。残念ながら、もはや店を維持することは出来なくなった。

ウィーンの有名なコーヒーハウス「Café Landtmann」(Café LandtmannのHPから)

4日夜のニュース番組で有名なウィーンの「コーヒーハウス」が閉鎖に追い込まれた、という話が報じられた。上記のコメントは店のオーナーの話だ。数回、その店でメランジェを飲んだことがある当方にとっても、店主の話を聞きながら「残念だな」とため息をつかざるを得なかった。

閉鎖に追い込まれた伝統的な「コーヒーハウス」としては、ウィーン16区オッタークリングの「カフェ・リッター」、アルザーグルントの「グラン・カフェ」、美術館地区の「カフェ・ハレ」、そして「カフェ・フランセ」などの名前が挙がっている。それぞれ由緒ある伝統的ウィーンの「コーヒーハウス」だ。

ウィーン市民にとって「コーヒーハウス」は欠かない。昔はコーヒーを飲みながら新聞を読んだものだが、今日では新聞はスマートフォンに代わった。それでも「コーヒーハウス」は常にやすらぎの場所として存在してきた。

しかし、コーヒー・ファンは自宅にコーヒーメーカーをもち、さまざまなコーヒーを独自に作る時代に突入した。伝統的なコーヒーだけではお客を呼べなくなってきた。ウィーンのコーヒー文化(Kaffee Kulture)を支えてきた「コーヒーハウス」は時代の流れの中で変遷を余儀なくされてきている。

ウィーンにコーヒー豆をもたらしたのはオスマン・トルコ軍だ。そして最初に開業された「コーヒーハウス」は1685年というから、ウィーンの「コーヒーハウス」の伝統は約340年に及び存在し、常に変化もしてきた。1960年代と70年代には、「コーヒーハウス」は大きな危機に直面したが乗り越えてきた。ウィーンの「コーヒーハウス」文化は現在、伝統的なカフェからスタンドアップカフェまで、多様性を誇っている。アルプスから流れる清涼な水にコーヒー豆が溶け込んでウィーンのコーヒーが生まれてきたわけだ。

伝統的な「コーヒーハウス」では、Melange(ミルク・コーヒー)、Einspaenner(アインシュペンナー)、Kapuziner(カプチーナー)といったウィーンの伝統的コーヒーが楽しめるが、新しい「コーヒーハウス」ではCaffeLatte(カフェラッテ)、Cappuccino(カプチーノ)、Espresso(エスプレッソ)といったイタリア銘柄のコーヒーが伸びてきている。