次に台湾総統選。「聯合新聞網」が5月23日に公表した世論調査では、前回(4月26日)は支持率29%で1位だった侯友宜が24%の2位に落ち、27%で2位だった頼清徳が28%でトップに立った。が、23%の3位から22%の3位と横ばいの柯文哲を含め、3候補とも20%台の接戦だ。22%から27%に増えた未決定層が帰趨を左右しそうだ。

18日から21日にかけて、20歳以上の有権者1,090 人に電話(固定と携帯)で行われたこの調査は、性別や年齢別のデータも収集した。性別では、柯文哲を支持する女性が17%である他はどの候補も22~28%の支持率で大きな差はない。が、20~39歳、40~59歳、60歳以上の青・壮・老に分けた年齢別では興味深い差が出ている。

すなわち、政治歴の長い頼清徳が青:26%・壮:29%・老:28%と万遍なく支持を得ている一方、侯友宜は青:17%・壮:24%・老:30%と老年層に強みがあり、逆に柯文哲への支持は、青:35%・壮:22%・老:8%と若者が多く、高齢者が極端に少ない。

政治歴は、99年から12年間の立法議員を経て台南市長を7年間務め、総統選で敗れた蔡政権の行政院長から副総統となった頼が一番長く、10年に警察大学校長から朱立倫新北市長の副市長に転じた侯が続く。14年に医師から台北市長に当選し、19年に立ち上げた民衆党党首となった柯は最も短い。出自は3人とも本省人、年齢は警察官僚の侯が65歳、共に台大医学部を出た柯と頼(ハーバード大にも留学)が同年齢の63歳だ。

保守派の筆者は3候補の対中国政策を最重要視する。その点で台独派の頼を好ましく思うが、政権入り後の頼は蔡総統の天然独(※)に染まった様で、むしろそれが現状維持派の多い台湾人の支持に繋がっている。国民党も、強固な一部を除き今は中国との統一を志向する者は多くなく、侯も対中対話を強調する。父親が二二八事件に巻き込まれた柯は、国民党とは一線を画し、かつては民進党シンパだった。柯の対中政策は経済での損得尽くに見え、危うい気がする。

※ 蔡は5月20日、政権発足7周年を振り返る演説で、「自由と民主主義の憲政体制を堅持」「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しないという立場を堅持」「主権への侵犯と併呑を許さないという立場を堅持」「中華民国台湾の前途は台湾の全ての人民の意志に従わなければならないとの考えを堅持」という4つの堅持を掲げた。

クリーン度(黒金=ダークマネーとの距離)は、党レベルでは民衆党が最も白く、民進党→国民党の順で黒さが増す。が、警察官僚出の侯がどう黒金にメスを入れて来たかは、表からは判らない。また日本で話題のLGBTや原発の問題では、民進党は民主進歩党の名に相応しく男女同性婚を法制化し、反原発でもある。人権派の民衆党も民進党に近い。が、国民党は同性婚反対・原発稼働推進だ。

筆者も、もし天然独に転じるなら侯政権でも構わない。5月26日の英字台湾紙「Taiwan News」は、北京は「李登輝を彷彿する侯より柯を望んでいる」と書いた(筆者は侯がサイバー犯取り締まり成果を上げたからだと思う)。米国大統領選でもトランプのカムバックを切望するが、例えば、トランプより強硬な共産中国政策を主張しつつ表明上は穏健に見えるペンス大統領なら、トランプと同様の諸政策をむしろハレーション少なく進めるのではないかとも思う。

詰まるところ台湾と米国の有権者には、日本の安全保障に深く関係する対中政策を主軸に、人権や気候変動の問題でも過度に人と自然の営みに抗わない(=左傾しない)ことを基準にして、彼らのトップ選びを進めてもらいたいものだ。そして台風一過の清々しい気分を味わいたい。