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台風2号に刺激された前線が降らせた大雨で、河川の氾濫や土砂崩れ、鉄道の運休などによる混乱が日本各地で起きた。被害を受けた方にはお見舞い申し上げるが、台湾経済部水利署は1日、北部のダムに5千万トンが流入し、台風の恩恵を受けたと発表した。他方、干ばつに悩む南部の台南や高雄の水と電力を賄う烏山頭ダムや曽文渓には160万トンしか流入せず、警報解除には至らないとのこと。斯く人知を超えて悲喜劇をもたらす自然の営みには抗い難い。
その台湾から、来年1月の総統選に出馬を表明している、台北市長で台湾民衆党党首の柯文哲が6月4日に来日する(本稿執筆は3日)。台湾総統は任期4年・重任2期なので、8年目に入った蔡英文が出馬できない与党民進党では頼清徳副総統の出馬が決まった。最大野党国民党からは、3年前にも韓国瑜に敗れた郭台銘を予備選で破った侯友宜新北市長が勝ち上がった(高雄市長の席を選挙戦で長く空けた韓国瑜はリコールされた)。
柯は日本で、政治家との面談は自民党の古屋圭司と木原稔(筆者が信頼する方の木原)に加え小池都知事や立憲議員と、会食は台湾華僑や交流協会大橋会長と、大学での講演は早大と東大で、他の訪問先には松下政経塾やジェンダートイレで話題の東急歌舞伎町タワーもなぜか予定している。
4月に訪米もした柯は、両岸情勢に関連して「台湾は軍事購入を控えていないが、米側が売りたいものは買えない」、「戦争に備えるが恐れない、戦えるが求めない」と米側に述べた。訪米の成果は人によって様々だが、立候補する自信がついたことと国民党との連携が空中分解したことは確かだという。
その台湾と米国でこの季節になると4年毎に大統領選(台湾総統もPresident)がなぜ盛り上がるのか。投票日は、11月の米国の方が10カ月遅いが、米国の長い選挙キャンペーンが皮切りになるので、ちょうど台風の発生し始めるこのタイミングに台湾と米国のトップ選びが話題に上ることになる。
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米国では、先に出馬表明したフロリダ州知事のデサンティス、7日に表明予定のペンス前副大統領を以て、共和党予備選の顔ぶれが出揃う。
トランプ前大統領、ニッキ―・ヘイリー元国連大使、ティム・スコット上院議員、起業家のビベック・ラマスワミ、元アーカンソー州知事エイサ・ハッチンソンが表明済みで、クリス・クリスティ前ニュージャージー州知事も近々表明するという。ポンペオ前国務長官は不出馬だが、一時出馬を仄めかしていたジョン・ボルトンもいる。
それに引き換え明らかにコマ不足の民主党、最もあり得るシナリオがバイデンの2期目挑戦だ。が、昨年の中間選挙で下院の過半数を制した共和党が委員長ポストを独占したことで、逆襲という台風に襲われている。筆者は中間選挙直後の11月20日、「中間選挙の結果が示した『24年はトランプ』」で「特に下院はトランプ派候補が16勝8敗と健闘し過半数を制した」と評した。明けて1月13日の「共和党の反撃に晒されるバイデン民主党の大ブーメラン」では次の様に書いた。
先の中間選挙で共和党下院が4年振りに議席の過半数を奪回したことで風向きが変わった。・・・共和党下院が多数派となって主要委員会の委員長を独占することで、J6事件の真相も解明されることを望む。・・・今般のバイデン文書、マスクが暴くツイッターの内幕、ハンターのラップトップを始め、共和党下院が民主党の脛の傷に塩を擦り込む材料には事欠かない。
バイデンが窮地に追い込まれつつあることは、共和党マークウェイン・マリン上院議員が6月1日、「バイデンが再出馬するのは家族を告発から守るためだ」と、カールソンなき「Foxnews」を今や凌駕する「Newsmax」に語ったことに象徴される。彼は、オクラホマで下院議員を10年努めた後、史上2人目のチェロキー族として先の中間選挙でトランプの支持を得て当選した。20年12月に選挙の不正を連邦最高裁に訴えたテキサス州を支持した100余名の共和党下院議員の一人でもある。
保守紙「ワシントンタイムズ」(旧統一教会系の米メディア)も5月10日、下院監視委員会の共和党ジェームズ・コマー委員長が、「監視委員会がFBIに提出を求めている非機密の記録(注)の存在は、FBIの回答から明らかなのに 拒否している」「我々はFBIに対し、この記録提出だけでなく、この疑惑を調査するために何をしたかの報告も求めてきた。FBIはその両方を怠っている」とFBIを激しく難じている。(注)バイデンが副大統領当時、外国人から賄賂を受けたとする内部告発文書。
息子ハンターのラップトップ事件では、バイデン家の弁護士がデラウェアのPC修理店経営者を証人喚問に召還すると、6月2日の「AXIOS」が報じた。件の経営者が中身を「CNN」などに公表したことが名誉棄損に当たると提訴したのだ。が、20年11月の投票直前の10月14日に「ニューヨークポスト」が暴露した記事の隠蔽にこそ奏功したものの、今やその中身を知るに至った多くの米国民が、事前に知っていたらバイデンに投票しなかったと世論調査に述べている現状では、悪足掻きに見える。
トランプは目下、各世論調査でデサンティスとの差をむしろ広げていて、バイデンにも勝つとされる。この事態に「ロイター」は2日、ヒューゴ・ディクソン(チャーチルの曾孫)のコラム「『第2次トランプ政権』リスクに備え、G7に今できること」を載せた。彼はこう書く。
もしもトランプ前米大統領がホワイトハウスに戻って来ると、他の先進諸国は試練に見舞われるだろう。何しろトランプ氏はロシアのプーチン大統領が好きで、気候変動に懐疑的で、「米国を再び偉大に」式の保護主義を好む。G7の残り6カ国にとって最善の「保険」政策は、ウクライナ支援を強化し、自由貿易を推進し、地球温暖化対策を加速させることだ。
が、左傾化したバイデン政権への対抗を露わにする共和党候補は、CNNタウンホールに出演したトランプを「プーチンの操り人形だ」と批判したクリス・クリスティ(16年と20年にはトランプの選挙参謀役)でさえ、大統領になった暁にはトランプとほぼ同じ政策を行うのではあるまいか。
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