特出している例は、欧州最大のカトリック教国フランスでの性的虐待報告だろう。フランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたこと、教会関連内の施設での性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るという報告書が発表された時、バチカン教皇庁だけではなく、教会外の一般の人々にも大きな衝撃を与えた。報告書は独立調査委員会(CIASE)が2019年2月から2年半余りの調査結果をまとめたものだ(「聖職者の性犯罪と告白の『守秘義務』」2021年10月18日参考)。
欧州のカトリック教国で聖職者の性犯罪問題が最初に大きく報道されたのはアイルランド教会だ。同国のカトリック教会で発覚した聖職者の未成年者への性的暴力事件はその後、ドイツ、オランダ、フランス、オーストリア、イタリア、スイスなど欧州各地の教会に拡大していった。ドイツのメルケル首相(当時)は、「教会の聖職者の性犯罪問題はもはや教会の問題だけに留まらず、社会全般の問題となってきた」と指摘したほどだ。
ちなみに、アイルランドでは聖職者の未成年者への性的虐待事件の発覚後、若い神父たちは外出を恐れるようになったという。アイルランドの日刊紙アイリッシュ・インディペンデント紙は、「若い神父たちは聖職者の服を着て路上に歩くと市民から非難や中傷を受けるので外に出たがらない」と報じたことがあった。中には教会の聖職者が犯した性犯罪が恥ずかしく、信者たちと顔を合わせられなくなった神父もいる(「外出を恐れる若い神父たち」2011年8月9日参考)。
南米出身のフランシスコ教皇は今年3月で教皇就任10年目を迎えた。同教皇は2019年、教会の刷新運動「シノドスの道」を提唱し、世界各教会で積極的に協議されてきたが、聖職者の性犯罪問題の解決の道は依然、見出していない。
このコラム欄で何度も指摘してきたが、未成年者への性的虐待は重犯罪だ。その犯罪を隠ぺいする者(組織)は共犯者だ。その観点からいえば、ローマ・カトリック教会は「組織犯罪グループ」と呼ばれても異議を唱えることはできない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。