バイオ医薬品分野での受託製造体制強化

 セグメントごとに過去最高益を支えた要因を確認すると、医療・医薬やITに関する領域の収益増は顕著だ。一つのポイントとして同社は、バイオ医薬品分野での受託製造体制を一貫して強化している。世界のヘルスケアセクターでは、バイオ医薬品の受託製造への需要が急速に増大している。主要な受託製造企業として、スイスのロンザ、独ベーリンガーインゲルハイム、米サーモフィッシャーサイエンティフィックが有名だ。がんや遺伝子疾患などの治療を行うために、世界の製薬業界では化学合成物質を用いて医療用の医薬品を生産する方式から、患者から免疫細胞を取り出して培養し、再度体内に戻すことによって治療を行うバイオ医薬品の研究開発競争が激化している。ファイザーなどの大手製薬メーカーは、治療効果の高いバイオ医薬品の有効成分を発見すると、受託製造企業に薬剤の製造などを委託する。製薬メーカーは新薬の開発により集中できる。

 富士フイルムはその点に着目して、新規参入を果たした。2010年代に入って以降、メルクやバイオジェンから資産を取得し、細胞培養などの受託製造体制を急速に強化している。事業を行う地域も拡大し、米国、デンマーク、英国、および、国内でバイオ医薬品の製造能力は拡充されている。グローバルに受託製造ニーズに対応するための買収戦略や設備投資の成果が表れ、ヘルスケア事業の成長ペースは加速した。2023年3月期、当該領域の売上高は前年度比29.2%増の1,942億円だった。

 見方を変えれば、富士フイルムはカメラフイルムで蓄積した製造技術を医薬・医療分野の潜在的な需要と結合した。同社の資料によると、2000年以降、デジタル化の加速によって写真用のカラーフイルム需要は急速な減少に転じた。富士フイルムは技術の応用の可能性、成長期待の高さ、競争優位性の発揮を評価軸に、医療・医薬、電子材料などの新規分野に参入し収益分野を拡大している。抗インフルエンザウイルス剤であるファビピラビル(アビガン)の製造もそうした取り組みの体表的な事例だ。