宇宙の非対称性を銀河の4面体で解き明かす
研究ではまず頂点となる銀河を指定し、続いて3つの銀河が指定されます。
すると上の図のように三角形で構成される歪んだ4面体が形成されます。
このとき、頂点から伸びる辺の長さが短い順に番号をつけ、短い方から長い方に矢印をすすめると、右回りと左回りの2種類が出現することがわかります。
(※4面体は3次元空間において鏡像関係をつくれる最も簡単な形をしていることが知られています)
もし宇宙が鏡面関係の一方を贔屓せず銀河の配置が完全にランダムならば、右回りと左回りの4面体の数は同じ1:1の比率になるはずです。
ただ、最新の演算機をつかっても、明確な答えを得るのは困難でした。
100万個の銀河を使って考えられる全ての4面体を作ると、その数は極めて膨大になってしまい、分析することは不可能になってしまいます。
そこで研究者たちは数学上のトリック(球面調和関数)を使って銀河をグループ化し、4面体の集合的な性質を探ることにしました。
この手法をとると右回りと左回りのどちらが多いかを決定できない代わりに、比率がどれほど偏っているかを知ることができます。
すると、4面体の回転方向の偏りは、ランダムな偶然や誤差から予想される7倍(7σ)に達していることが判明します。
物理学において信頼性があると認められる結果は5倍(5σ)であることを考えると、銀河の分布に明らかな非対称性を持っていると言えるでしょう。
類似の手法で計算した別の研究グループでは、およそ2.9倍(2.9σ)とやや信頼度が低くなりますが、独立した2つの研究が同じ傾向を発見したという点で重要と言えるでしょう。
この結果は、私たちの宇宙は鏡面関係にある構造のうちの一方が多く出現するように調整されていることを示しています。
そうなると気になるのが、銀河分布に非対称性が生じる原因です。
宇宙はいつから非対称になったのか?

なぜ私たちの宇宙は鏡面関係にある構造の一方の出現を優先させる非対称性をもつのか?
研究者たちは、非対称性の起源は宇宙誕生直後のインフレーションに遡ると考えています。
私たちの宇宙は誕生直後しばらく小さな点に過ぎませんでしたが、10のマイナス36乗秒後から10のマイナス34乗秒という極めて短期間の間に、光の速度を超える指数関数的な急膨張を引き起こしたと考えられています。
そのため銀河分布の対称性に影響を与えるような変化が起きたとすれば、その変化はインフレーション中しかありえません。
この変化によって宇宙の仕組みが根本的なレベルで変化し、対象性が破れる宇宙になったと考えられます。
そして宇宙が小さかった頃に刻まれた非対称性の影響は宇宙が拡大した後も残り続け、銀河分布の非対称性に形を残しました。
現在、この非対称性を誘発する変化が起きた仕組みは解明されておらず、未知の量子現象、あるいはまだ発見されていない力から生じた可能性があります。
もしそのような未知の現象や力を特定し非対称性の根源を理解することができれば、標準模型を超えて、新たな段階へ物理学をステップアップさせ、なぜ私たちの宇宙は反物質より物質が多いのかといった、究極の疑問に答えることができるでしょう。
参考文献
The laws of physics have not always been symmetric, which may explain why you exist
元論文
Measurement of parity-odd modes in the large-scale 4-point correlation function of Sloan Digital Sky Survey Baryon Oscillation Spectroscopic Survey twelfth data release CMASS and LOWZ galaxies
Test for Cosmological Parity Violation Using the 3D Distribution of Galaxies