厚底シューズ、1カ月で使い捨てが正解か…200kmで劣化、膝に負担のリスク
「Getty Images」より(画像=『Business Journal』より 引用)

「令和3年社会生活基本調査」(笹川スポーツ財団)によると、令和2年度において年1回以上のランニング・ジョギングを行っている人口は、推計で1055万人にも及んでいるという。

 そんな数多くのランナーたちの間で、“厚底ランニングシューズ”の着用者が増えているそうだが、今ネットの掲示板などで少々不安になる噂が広まっている。それは“クッション性の低下で膝を壊す可能性があるので、3万円のランニングシューズは見た目がキレイでも200kmで捨てろ”というもの。

 人間工学に基づいて高機能化が進み、3万円前後するランニングシューズも少なくないが、そういった高額な靴を200km走った程度で買い替える必要があるとしたら驚きだ。仮に毎日5~10km走るランナーならば、たった1カ月間ほどで新品を買い直す必要があることになる。毎月3万円の出費となると、経済的に裕福でないと継続できないのではないだろうか。

 そこで今回は、スニーカーのリペアなどを手掛ける専門店「スニーカーアトランダム」の城所匠氏に、本当に厚底ランニングシューズが実質“使い捨てシューズ”と化しているのか、そうだとすれば何が原因でそうなってしまうのかなどを聞いた。

早く走れる“魔法のランニングシューズ”として世界を席巻

 今や世界中のブランドがこぞって商品を出している厚底ランニングシューズ。まずはその人気の背景から聞いた。

「2017年にナイキが『ヴェイパーフライ4%』というランニングシューズを世に送り出しました。これを履いたケニアのマラソンランナーであるエリウド・キプチョゲ選手が、非公認の記録ではありますが、フルマラソン42.195kmを2時間00分25秒という、世界記録を2分32秒も上回る時間で走ったのです。『ヴェイパーフライ4%』が、いわゆる“厚底ランニングシューズ”と呼ばれるもので、その記録がきっかけで世界的に一躍注目の的になったのです。

 日本でも2020年3月に、大迫傑選手が東京マラソンで後継モデルの『ナイキ ズーム ヴェスパーフライ4%』を着用して、フルマラソンで2時間5分29秒という日本新記録を樹立しました。そして東京五輪マラソン代表に内定し、日本での流行のきっかけとなったのです。当時は転売屋が続出するなど、ナイキのモデルは入手困難を極めましたが、現在は少し人気が安定してきました」(城所氏)

 厚底ランニングシューズは、どういった点が優れているのだろうか。

「厚底ランニングシューズの最大の特徴は“ゆりかご構造”になっていること。これはソール部分を湾曲させることで自然と足が出やすくした構造のことです。加えて、内部に反発力のあるカーボンプレートを入れている商品も多いのですが、そのプレートの高い反発力を利用して前方向への推進力を生み出しています。

 また、見た目は重量感がありそうですが、実際は非常に軽量というのも魅力ですね。『ヴェイパーフライ4%』を開発したナイキは、“EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)”という素材をベースにこうしたシューズを作っており、後続のシューズも基本的にはEVAが主な素材として採用されていますが、とにかく加工がしやすいうえに非常に軽量なのです」(同)

 なるほど、厚底ランニングシューズは圧倒的な推進力と、重そうな見た目のイメージを覆す軽量さという、ダブルの衝撃があるほど高性能化していたということか。

「本当にすごい性能なんですよ。特にマラソンなどの陸上競技では無類の強さを発揮し、むしろ効果がありすぎるということで、世界陸連が厚底の厚さに規定を設けるという事態にまで発展しました。私も普段履いているのですが、その歩きやすさは抜群で、一度使ったら以前のシューズには戻れませんね」(同)