ハリ・ナダ氏を暴走させたルノーに対する恨み
――なぜナダ氏は、そこまでしてクーデターを仕掛けようとしたのでしょうか。
ケリー ナダ氏はもともと欧州日産に勤めており、ルノーを非常に恨んでいました。ルノーは欧州日産よりもヨーロッパでの事業規模がはるかに大きいため、ルノーは欧州日産を利用しているとナダ氏は考えていました。例えば、2000年代初頭にルノーが提案した、欧州におけるアライアンスの管理機能をすべてルノーが管理することで、欧州日産の管理職(ナダ氏の仕事を含む)をすべて排除するという提案(これは承認されなかった)に、ナダ氏は大きな憤りを感じていました。
――それが日産との合併に反対する大きな要因となるわけですね。
ケリー ナダ氏はルノーへの恨みから、ルノーと日産の合併に断固として反対していました。合併に反対したもう一つの理由は、合併後にナダ氏がアライアンスの管理部門のトップに任命されない可能性が高く、合併後の企業のリーダーに直接報告できないため、アライアンスにおける自分の地位が大幅に低下すると考えたからです。
――なぜ恨みの矛先がゴーン氏に向かったのでしょうか。
ケリー 2018年2月、ナダ氏は、ゴーン氏がアライアンスの構造を「不可逆的」にすることに同意した場合に限り、フランス政府がゴーン氏をルノーの会長兼CEO(最高経営責任者)として新たに4年の任期で任命することを知りました。すると、ナダ氏は川口氏らにメールを送り、「合併に関する列車は駅を離れた。できるだけ早く、この対応について議論をする必要がある」と述べました。
2018年春、ナダ氏はフランス政府やルノーの取締役会のメンバーと会談し、個人的に合併に反対していること、合併する正当な理由がないと考えていることを伝えました。
同年4月と5月には、ナダ氏の指示のもと、「ゴーン氏が合併に反対し、フランス政府がゴーン氏の追放を望んだ場合、ゴーン氏を日産の会長として残すが、ゴーン氏が両社の合併に同意した場合はゴーン氏を追放する」という詳細なシナリオ・プランが作成されました。その後、ナダ氏はクーデターを推進するために多くの追加行動をとりました。
獅子身中の虫となった前社長
――日産前社長である西川廣人氏について、どう思われますか。

ケリー 西川さんには失望しました。彼は2011年から2018年まで一貫して、ゴーン氏が引退した後もゴーン氏との関係を継続することが、日産にとっても利益になると私に伝えていました。
ところが2018年11月、西川さんは日産がゴーン氏との関係を継続するため自分が奔走していたことを一切否定したのです。引退した後も、ゴーン氏との関係を継続することを検討していたにもかかわらず、ゴーン氏を強欲呼ばわりし、ゴーン氏が退任した後の関係は有価証券報告書に記載すべきであったと、誤った主張をしました。
――西川氏は当初、ゴーン氏をどのように考えていたのでしょうか。
ケリー 2011年秋、西川さんは私に、ゴーン氏が引退した後も関係を継続することが日産の利益につながると考えていると伝えてきました。西川さんは、ゴーン氏がコンサルタントとして日産に多くの重要かつ貴重な貢献をもたらすと考えており、競業避止義務(取締役のライバル企業への転職の禁止)によってゴーン氏が競合他社に加わることがなければ、日産が優秀な役員を失わずに済むと正しく考えていました。
その結果、西川さんは私に、ゴーン氏が引退した後もゴーン氏との関係を継続することが日産の最善の利益であると我々が考えていることをゴーン氏に知ってもらうために、ゴーン氏と一緒に確認できる「拘束力のない退職後の文書」の草案を作成するよう依頼したのです。
――その後、この文書はどうなったのでしょうか。
ケリー この文書の草案は、2013年と2015年に社内の弁護士と外部の法律事務所であるレイサム&ワトキンス(LW)により更新されました。また、日産が退職後契約を締結した場合に支払われるべき報酬額について助言するために、報酬コンサルタントが雇われました。LWは、この文書の草案に記載された報酬の額を認識していましたし、両文書は西川さんが確認し、承認していました。
――なぜ西川氏はゴーン氏に反旗を翻すようになったのでしょうか。
ケリー 2018年になると、西川さんのCEO就任後、日産の業績が大幅に悪化したことが明らかになりました。西川さんがCEOとして成果をあげることに苦戦していることは明らかでした。また、西川さんは、ルノーとの合併に断固として反対することを、複数回にわたってメディアに公言していました。
西川さんがクーデターの首謀者たちを支持し、ゴーン氏の更迭を支持したのは、合併に反対し、ゴーン氏を更迭することで西川さんがCEOを続けられるからだと思います。
――ケリー氏の裁判で西川氏は、どのように証言しているのでしょうか。
ケリー 2021年末に西川さんは私の裁判で、ゴーン氏が引退した後もゴーン氏が日産に価値ある貢献を続けられるので、コンサルティングと競業避止で日産がゴーン氏との関係を継続することを西川さんは支持したと認めました。また、西川さんは、拘束力のない退職後の文書案に記載された報酬額が妥当であること、日産がゴーン氏と退職後の契約を結ぶには、退職後の文書が取締役会で承認される必要があることに同意したと証言しています。
――検察庁と司法取引をした大沼敏明前秘書室長やハリ・ナダ氏、2017年からCEOを務めた西川氏などは、日産から民事上の責任は一切問われていません。日産の対応のアンバランスさをどう思いますか。
ケリー 日産はゴーン氏に対して、有価証券報告書に記載した以外に約束や支払いをしていないのですから、ゴーン氏の報酬を過少に申告したわけではないのです。私は、大沼氏をはじめとするクーデターのメンバーは、日産の取締役会で解決すべき会社の問題を検察に持ち込んだことで、日産のビジネス、株主、従業員に大きな損害を与えたと考えています。
日産は、なぜゴーン氏とケリー氏を追い落とす必要があったのか。なぜ、ほかの役員たちに責任追及はしないのか。アンバランスな対応に疑問が残る。
(構成=松崎隆司/経済ジャーナリスト)
提供元・Business Journal
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