日本半導体産業の歴史を振り返る

今一度、日本半導体産業の歴史を振り返ってみよう(図4)。もともと、日本半導体産業が世界的に強力だったのは、半導体メモリDRAMにおいてである。実際に、1980年代中旬にDRAMで世界シェア80%を独占し、そのおかげでDRAMを含むすべての半導体の世界シェアが50%を超えた。

日本政府は巨額助成金を投入…「日本の半導体産業が復活」が妄想だといえる根拠
(画像=『Business Journal』より引用)

ところが、1990年代にサムスン電子などの韓国メーカーが急成長し、安く大量生産する技術で日本を駆逐していった。その結果、2000年頃に日立製作所とNECが設立したエルピーダ1社を残して、すべてDRAMから撤退してしまった。そのエルピーダも2012年に経営破綻し、米マイクロンに買収された。

DRAMから撤退した日本は、大規模なロジック半導体(System on a chip、SOC)に舵を切った。そのSOCを強化するために、図2に示した通り、国家プロジェクトやコンソーシアムを多数立ち上げたが、日本のシェアの低下に歯止めをかけることはできなかった。そして、2021年から今日に至るまでの半導体ブームがやってきたのである。そこで、「日本半導体産業の復活」が叫ばれるようになったわけである。

では、復活させるのは、1980年代に世界を制覇したDRAMなのか? 確かに日本政府はマイクロン広島工場に多額の助成金を出すことになった。しかし、マイクロン広島工場は米国籍であるため、この工場のDRAM生産量が増えても、日本の復活とはいえないだろう。また、キオクシアとWDが四日市工場や北上工場で生産しているのはNANDであり、DRAMとは種類の異なる半導体メモリである。加えて、2016年以降のキオクシアの売上高シェアは20%以下、WDのシェアは15%程度であり、30~35%のサムスン電子には遠く及ばない(図5)。この状態で、日本政府が929億円を助成したところで、サムスン電子に追いつくとは到底思えない。

日本政府は巨額助成金を投入…「日本の半導体産業が復活」が妄想だといえる根拠
(画像=『Business Journal』より引用)

となると、現在、多くの人々が「日本半導体産業の復活」と唱えていることの正体とは、ソニーとデンソーが資本参加するTSMC熊本工場、および「2027年までに2nmを量産する」と発表したラピダスにおけるロジック半導体ということになるだろう。

なぜ違和感があるのか?

改めて図4を見ていただきたい。1980年代に日本が強かったのはDRAMである。その頃、日本は世界シェア50%超を独占したが、そのほとんどがDRAMによる売り上げだった。2000年を境に日本はDRAMから撤退し、ロジック半導体のSOCに舵を切った。そして、DRAMが強かった頃も、DRAMから撤退した2000年以降も、日本がロジック半導体で強みを発揮したことはなかった。また、TSMCと戦えるような世界的なファウンドリーも、日本にはほぼなかったといっていい。

そのようななかで、12/16~22/28nmロジック半導体の受託生産を行うTSMC熊本工場や、2nmのロジック半導体を量産すると発表したラピダスが注目されているわけである。今の日本半導体産業の状況を正しく表現するならば、それは「復活」ではなく、「ロジック半導体への新たな挑戦」だろう。しかも、相当困難な挑戦である。ということから、筆者は、「日本半導体産業の復活」に大きな違和感を覚えるのである。

以上の筆者の論説に対して、「屁理屈を言うなよ、日本半導体が活性化されているのは事実なんだからさ」と反論が飛んできそうである。これに対しては、拙著記事『28nmロジック半導体の逼迫が解消、TSMC熊本工場が無用の長物になる可能性』)、『ラピダスが2nm半導体を量産できない根本的理由…サッカー日本代表との致命的な違い』)をご参照ください。結論を一言でいえば、またしても失敗するであろう、的外れな頓珍漢なところに、無駄に税金を使うなということである。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

提供元・Business Journal

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