経済省の政策はすべて失敗
図2に示したように、日本半導体産業の世界シェアは1980年代中旬に約50%でピークアウトした。その後、Selete(セリート)などのコンソーシアム、「あすか」などの国家プロジェクト、エルピーダメモリやルネサス エレクトロニクスなどの設立があったが、日本のシェアの低下が止まることはなかった。

筆者は2021年6月1日に衆議院の科学技術特別委員会に半導体の専門家として参考人招致を受けて意見陳述を行った際、この図を示しながら、「歴史的に、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」であると論じた。この詳細は、拙著『半導体有事』にも詳述し、前掲のプレジデントオンラインにもそのくだりが掲載されている。また、衆議院が作成したYouTube動画で視聴することもできる。
しかし、その後、日本には、筆者が予期しなかった半導体ブームがやって来ることになった。
半導体ブームの到来
先端半導体工場の新増設を支援する改正法が2021年12月20日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決し、成立した。その後、改正法に基づいて次々と半導体工場への助成が発表された。その一覧表を図3に示す。

まず、2021年10月に熊本に進出することを発表した台湾積体電路製造(TSMC)には、ソニーとデンソーが資本参加することになった。株式比率は、TSMCが約70%、ソニーが約20%、デンソーが約10%である。この合弁会社「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing」(JASM)は、12/16~22/28nmのロジック半導体の受託生産を行う。そして、日本政府が4670億円を助成する。
次に、経営破綻したエルピーダメモリを買収した米マイクロン広島工場には、465億円が助成される。また、広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて来日した欧米韓の半導体関連メーカーのトップらが岸田総理大臣と面談し、マイクロン広島工場には2000億円が追加助成される模様である(ブルームバーグの記事)。マイクロン広島工場は、総額5000億円を投資して、最先端露光装置EUVを導入し、これを1γと呼ばれる次世代のDRAMの量産に使う見込みである。
さらに、NANDフラッシュメモリを生産している四日市工場と北上工場を共同運営しているキオクシアと米Western Digital(WD)には929億円が助成される。2022年後半から半導体市場は史上最悪レベルの大不況に突入したことから、2社の合弁交渉が急速に進められている。技術系の情報サイト“tom’s HARDWEAR”には、WDがキオクシアを買収すると記載されている。もしそのようになれば、四日市工場も北上工場も米国籍のNAND工場ということになる。
そして、2022年11月に「2027年までに2nmのロジック半導体を量産する」と発表したラピダスには、700億円が助成される。加えて、西村康稔経済産業相は今年4月25日の閣議後記者会見で、ラピダスに2600億円を追加支援すると発表した(日経新聞4月25日)。
以上のように、日本に新設・増設される半導体工場に、次々と政府が多額の補助を行うことになった。このことから、2000年以降、凋落し続けていた「日本半導体産業が復活する」と唱える人が増えてきたわけだ。それに対して、冒頭に書いた通り、筆者は大きな違和感を抱いている。