その上でジョーンズは、ウクライナ戦争は、大国間の競争と紛争では米国と主要な同盟国やパートナー国の強力な産業基盤が必要であることを実証したが、ウクライナはその一部に過ぎないとする。そしてより憂慮すべき課題は、インド太平洋地域を含む将来の1つまたは複数の戦争に備えた産業基盤のあり方であるとし、米中間の競争が激化し、ロシア、イラン、北朝鮮、テロ集団からの脅威が続く中、米軍は、2回とは言わないまでも、少なくとも1回の大規模な戦争を戦う準備が必要であると述べる。
その具体的な解決策としてジョーンズは、軍需品総所要量の見直し、補給要件の再評価、戦略的軍需予備軍の創設、現在および将来の要求を満たすための持続可能な軍需品調達計画の決定(大国を抑止し、戦うために、打撃、防空、ミサイル防衛などへの投資に重点を置き、その割合を最大化する)、買収アプローチの拡大と契約プロセスにおける柔軟性の活用、下請け(sub-tire)への投資、主要な同盟国やパートナー国のための FMS と ITAR(国際武器取引規制)の合理化、共同制作施設をより多く作り、同盟のてこ入れ(ally-shoring)を模索することを挙げている。
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斯様に新下院外交委員長やCSIS論考の著者が、ウクライナよりむしろ習の中国による台湾侵攻を強く意識していることは我が国にとって好ましい。先の岸田訪米でバイデンが見せた岸田の肩に腕を回す仕草は、土産に持参した防衛三文書や防衛費倍増への評価のみならず、CSIS論考が提案する解決策にある様な事柄を岸田に飲ませたことを窺わせる。が、世界最強国と軍事同盟を結ぶ今の我が国に必要なことだ。
が、だとしてもエイブラハムの納期やCSISのジョーンズ論考は、米国の防衛産業や装備品在庫の危うい現状を曝け出し過ぎてはいまいか。後者には、台湾海峡での米中戦争を想定したCSISの戦争ゲームで、米国には3週間の戦闘でJASSM(統合空対地スタンドオフミサイル)4000発、LRASM(長距離対艦ミサイル)450発、ハープーン400発、トマホーク陸攻400発が必要だが、紛争開始1週間以内にそれらの在庫を使い果たすと書いてある。また台湾への108両のエイブラハムスも何時なるか判らない。
こうした米国の危うい防衛事情が、71年前のアチソン演説に触発されて南侵した金日成の様に、習近平をして、それなら今のうちに台湾に侵攻しようか、と思わせてしまうのではないかと、筆者はつい心配してしまう。
折しも大統領や副大統領による機密文書持ち出し問題が喧しいが、その状況を元国防総省特別顧問のエール大学オナ・ハサウェイ法学教授は、「毎年5000万件以上の文書が機密扱いになっている。正確な数は分からないが、政府でさえ全てを把握し切れない」と、多過ぎる機密文書を嘆じている(20日の「Daily Signal」)。
同記事は、敵から特定の国家安全保障情報を保護することはもちろん重要で、ハイテク兵器システムの技術的な詳細や自国スパイの身元といった明白な案件は最大限に保護されなければならないとしつつも、機密化は政府のもう一つの重要な優先事項である透明性に真っ向から反するとも指摘する。目下の米国は防衛基盤が脆弱なだけでなく、その情報管理も、中国の一貫した秘密主義に比べ余りにちぐはぐではなかろうか。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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