バイデンにエイブラハムスのウクライナ供与を強く要請し、ドイツをしてレオパルド2供与に踏み切らせたのは、新たに下院外交委員会委員長に就任した共和党マイケル・マッコール議員だ。彼はエイブラムスが「たった1両」あれば、同盟国がロシアとの戦いのために自国の戦車在庫を放出すよう促すには十分だ」「ウクライナが陥落すれば習近平主席は台湾に侵攻する。ロシアと中国(が重要)だ」と述べた。バイデン側近の民主党クリス・クーンズ上院議員も「もしドイツが、アメリカがエイブラムスを送るという条件でレオパルド供与を認めるなら、我々はエイブラムスを送るべきだ」と同調した。

共和党政権になれば米国によるウクライナへの武器供与にブレーキが掛かる、との論があるが、マッコールの対応を見る限り、そういった気配は窺えない。但し、筆者は「ウクライナが陥落すれば習が台湾に侵攻する」との彼の論には必ずしも賛同しない。ウクライナ国内にいるロシア系住民の民族自決の成就は、今や7割近くが台湾人アイデンティティを持つに至った台湾国民の民族自決に繋がるからだ。習は台湾侵攻をこの戦争の帰趨と絡めてはいまい。

斯くエイブラハム供与には時間が掛かる様だが、レオパルドは100両が3ヵ月以内に供与されるという。それらと14両のチェレンジャーがウクライナの戦況にどう影響するかが焦点だが、ロシア側も「スプートニク」が連日報じるように対抗策を講じるだろうし、これまでのこの戦いの推移と同様に、またロシアの突然の侵攻を世界中の識者が外したのと同じ様に、極めて予測が難しい。

ロシアによるウクライナ侵略を収めることが何故こうまで難題かと言えば、それは偏にロシアが国連安保理事会の常任理事国でありながら核保有国の一方の雄であるからだ。もう一方の雄である米国がリーダーシップを発揮することこそ、この難題を解決する唯一の方策だが、そのバイデンがプーチンと正面から向き合わず、高々武器供与という本質から外れた政策でしか対応できないとは実に嘆かわしい。

在日米軍司令部(USFJ)SNSより

そこでCSIS論考のことになる。著者のセス・G・ジョーンズはCSISの上級副所長で、50人以上のスタッフと広範なネットワークからなるチームを率い、国家安全保障に関する戦略的洞察と政策的解決策を提供する、防衛戦略、軍事作戦、戦力態勢、非正規戦の専門家だ。彼は序論で次の様に述べている。

米国の防衛産業基盤は、現存する競争的な安全保障環境に対して十分な準備ができていない。現在、米国の防衛産業は平時の環境に適したテンポで運営されている。台湾海峡での中国との戦争のような大規模な地域紛争では、米国の軍需品の使用量は現在の米国防総省の備蓄量を上回り、「空箱」問題に発展する可能性が高い。

CSISの一連の戦争ゲームの結果によると、例えば台湾海峡での紛争では、米国は長距離精密誘導弾など一部の軍需品を1週間以内に使い果たす可能性が高い。また、米国の防衛産業基盤が大規模な戦争に対応する十分な急増能力(surge capacity)を欠いていることも浮き彫りになっている。

つまり、ウクライナ戦争が示すように、大国間の戦争は核戦争というよりも長引く産業型の紛争になる可能性が高い。その抑止に失敗した場合、長引く戦争に十分な弾薬やその他の兵器システムを生産できる強固な防衛産業が必要とされるので、効果的な抑止は、部分的には、軍需品やその他の兵器システムの十分な備蓄に依存する、としているのだ。

ところが米国は現在、ロシアとのこの産業型通常戦争でウクライナへの直接支援を膨大な金額しているのに加えて、インド太平洋地域では中国と米国の間で緊張が高まっているとジョーンズは述べる。そしてこうした課題の規模、範囲、意味をよりよく理解するために、以下の様な質問を投げかけている。

第一にウクライナ支援に照らして、米国の防衛産業基盤の生産能力はどの程度か。第二に米国の主要な兵器システムと軍需品の備蓄状況を含めて、米国が一つまたは複数の主要な戦域戦争に関与することの意味合いは何か。第三にFMS(外国への武器売却)やその他の政策と規制は、どのようにギャップを埋めるのに役立ってきたか、そして主な課題は何か。第四にこれらの課題を解決するためにどのような解決策が考えられるか。