割増金制度を始める背景

 NHKの「カネあまり」は顕著だ。21年度の受信料収入は6896億円で、毎年平均して1000億円以上の連結事業CF(キャッシュフロー)を生み、22年9月末時点の連結剰余金残高は5000億円を超える。そしてNHK本体は法人税の負担はない。

 そんなNHKは、なぜ割増金制度を始めるのか。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著者で早稲田大学社会科学総合学術院の有馬哲夫教授はいう。

「NHK放送文化研究所の調査によれば、NHK総合チャンネルを1週間に5分以上見ている日本人は54.7%であり、日本人の約半数がNHKを見ていない。NetflixやAmazonプライム・ビデオなど動画配信サービスへの個人の支出が増えるなか、人々の間では『なぜNHKを見ないのに高い受信料を払わされなければならないのか』という不満が高まっている。そうした不満を和らげる目的もあり、NHKは10月から受信料を値下げするが、その交換条件として政府は事実上の罰則である割増金制度の導入を認めたという構図だ。

 NHKの会長は政府が任命するNHK経営委員会で選任され、政府は事実上、NHKの経営をコントロールできる。なので政府は、言いなりにさせられるNHKを存続させたい一方、世論の反発を避けるためにもNHKの肥大化は困る。そこで、NHKに組織の規模縮小をさせるために受信料を値下げさせる代わりに、割増金の導入を認めたということだ。

 だが、そもそもNHKの受信料は、契約締結の相手方や内容などを自由に選ぶことができるとする憲法第13条に違反しており、また、違反しても効力が生じず処罰もされない訓示規定だ。にもかかわらず事実上の罰則である割増金を国民に課すというのは不適切だ」

 NHKの稲葉延雄会長は「割増金についても、一律に条件に該当するからといって請求するというのではなく、お客様の個別の事情を総合的に勘案しながら運用していくという姿勢にあると聞いております」と話しているが、実際には、どのような運用になると予想されるか。

「総務省は1月、日本放送協会放送受信規約について、これまで受信契約書を『遅滞なく提出』としていたところを『受信機の設置の月の翌々月の末日までに提出』とするNHKの変更案を認可した。だが、NHKは受信契約を結んでいない国民の個人情報を収集することはできないので、誰がいつから受信機を設置しているのかは把握できない。よって、個人が負担すべき割増金を正確に把握できるとは限らず、この制度を全国民にとって公平に運用することは事実上困難だ」

 今後のNHKの行く末について有馬教授はいう。

「政府からNHKへの組織縮小圧力は今後も続くため、設備や人員は徐々に縮小されると思う。ネットで配信すれば、全国に張り巡らされた巨大な放送網を維持するためのコストは必要なくなるので、広告費を取り入れるなどして放送は無料にして、配信のほうは有料で提供すればよい。世界もこの方向に向かっている」

(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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