今年の母の日、遠方から遊びに来た高齢の母親に釣魚料理を振るまったエピソードを紹介したい。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター・宮崎逝之介)
初ひ孫会いたさに来た母親
この春、筆者の娘夫婦に長女が誕生した。長年に渡り離れて暮らす筆者の母親にとっては初のひ孫だ。
まもなく卒寿を迎える母親は、もうかなり足腰が衰え、普段から階段の昇り降りだけではなく、平地での歩行にも苦労するほどなのだが、かわいい初ひ孫会いたさに文字通り老体に鞭を打って我が家に遊びに来ることになった。
混雑するゴールデンウィークは避け翌週末新幹線と筆者の弟の車を乗り継いで、そこそこ遠くの海外旅行に行けるくらいの時間をかけてはるばる我が家にやってきた。
偏食な母親に何を食べてもらうか
さて、困ったのは食事である。生後間もない乳児がいることもあり、外食ではなく筆者と妻の手料理でもてなすことにしたのだが、悩みの種は「筆者の母親に何を食べてもらうか」である。
恥ずかしながら、筆者は自分の母親が何を好んで食べるのか、あまり詳しく把握していない。幼い頃から長年母親にさんざん食事を用意してもらっておきながら、母親自身の好物はよく知らないのだ。
母親の好きな食べ物が思い浮かばない
逆に知っていることといえば、偏食がひどく、嫌いなものが多いということ。たとえば嫌いなものは、肉類全般に魚類全般、そして野菜も苦手だ。肉も魚も野菜もNGなのだから絶望的である。逆によく食べているものは果物や和菓子など。
たとえば外食で自分が注文したものでも、一口食べて気に入らなければ食べるのをやめてしまいすべて残してしまう。ランチバイキングなどではひたすら同じフルーツばかり食べることもある。偏食王といってもいいだろう。
本人に直接「何か食べたいものある?」と電話で尋ねてみるのだが、いつも決まって「何も気にしなくてもいい。もうそんなに食べない」というばかり、そして自分が買ってきた団子や饅頭などを食べて簡単にすませていることが多い印象だ。
かすかな記憶をたどる
すっかり途方に暮れていたのだが、今回長女の出産がきっかけとなって、かすかな記憶がうっすらと蘇った。
その場面は数十年前。今回母親になった長女自身が生まれて間もない乳児の頃、筆者の母親がやはり遠路遥々育児や家事の手伝いのため、当時暮らしていた都内の集合住宅に来てくれた数日の間に起きたできごとだ。
母親が、近所の魚屋の店先で焼かれていた食べきれないほど大きなマグロの頭を買って来て私たち家族を驚かせた。当時まだ釣りの心得もなく、あまりの大きさに驚いていた筆者に向かって「おいしそうだったから買って来た」と母は笑って言った。
焼き魚なら食べるかも
そうか、生魚は嫌いでも焼いた魚は好きなのかもしれない。数日前に釣ったワラサと真鯛を焼こうかな、と思いついた。
さっそく母親に電話で聞いてみた。「ブリの頭焼いて食べるか?」「ああ、それはおいしそうだね」「真鯛の味噌焼きも食べるかい?」「食べる、食べる」事態は一気に好転した。