まず、母体企業が親密にしている金融グループに属する投資運用業者に委託されているとして、割高な運用報酬の設定など、企業年金に明らかに不利となる約定がなされていれば、そこに積極的な損害が認定されて、利益相反が証明されるが、さすがに、そうした事態はあり得ない。

しかし、積極的な損害は証明され得ないとしても、消極的な逸失利益の存在は推定され得る。つまり、運用能力の評価だけで投資運用業者が選定されていたとしたら、より優れたものが採用され、より優れた成果を生んでいた可能性を排除できないのである。実際、運用能力の評価と関係なく、単に母体企業の親密先の関係会社だという理由だけで選定されているのだとしたら、そうした推定には十分な根拠があると考えられる。

ところが、逸失利益があると推定はされても、その存在を損害として証明できるか、更には損害額の合理的推計ができるのかという具体的な検討に至ると、極めて困難というよりも、ほぼ不可能だろうということが直ちにわかる。故に、利益相反のおそれは蔓延するのである。

森本 紀行 HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 HC公式ウェブサイト:fromHC twitter:nmorimoto_HC facebook:森本 紀行