植田総裁誕生の意味

 今回の声明文で注目されるのは2点。第1点は「2%の物価安定の目標」に関して、その前文で「賃金の上昇を伴う形で」が付記されたことである。金融政策のみでは物価目標の実現が難しいことを踏まえてのことかと推測される。第2点は第1点とも絡むが、過去25年間の金融政策運営について1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うことを決めたことである。

 日銀はデフレのスタートを金融危機が起きた90年代後半と捉えて、それから25年間、「物価の安定」を実現すべく、さまざまな金融緩和政策を実施してきたが、2%物価目標の実現はいまだに達成されていない。日銀内部では結局、金融政策のみでは2%物価目標は無理ではないかという見方が強まっている。第1点の「賃金の上昇を伴う形で」という表現は、日銀の思いが詰まったものとみられる。もし、金融政策のみでは物価目標の実現が無理ならどう対応すべきか、望ましい金融政策とは何か、これらを検討するタイミングに来ているとの認識である。

 さて、過去25年という大掛かりなレビューを行うとすれば、金融政策の基本に立ち返って考察する必要がある。その作業を主導する人物は経済学、金融論に精通した学者であるのが相応しいというわけだ。それが植田総裁実現の背景にありそうだ。しかも、植田総裁は審議委員として金融政策決定に関わった経験もあり、いわゆる学者バカではない。

 海外の中央銀行のトップを見ても、FRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長やイエレン議長、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁など学者が多いのが実情である。日銀もいつまでも財務省と日銀の間で総裁ポストをやり取りするこれまでの方式では時代遅れであり、時に学者が総裁ポストについて金融政策をリードする局面があっても良いのではないか、という意見が政府を動かしたようだ。一度、原点に戻って、レビューを行い、日銀としてあるべき中央銀行の姿を模索する、これが植田人事の背景かと思われる。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

提供元・Business Journal

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