生まれてくる子供は生涯で8000万円以上も損する

それはこのプランで子供が増える根拠が何もないことだ。権丈氏も「社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる」と書いている。このままでは日本の社会保障は、それを支える現役世代が減って支えきれなくなるので、「支え合い」と称して負担を増やそうという話で、少子化はその方便に使われているだけなのだ。

このプランのもう一つの問題は、これが既存の社会保障支出をいろいろな財源から集めるだけで、給付の削減を考えていないことだ。たとえば原則1割負担になっている後期高齢者の窓口負担をすべて3割負担にするだけで、現役世代の負担は3兆円以上減るが、そういう対策は考えていない。政治的に不可能だからである。

財界や労働組合は、高齢者も負担する消費税を財源として排除すべきではないと主張しているが、岸田首相は「消費税の増税は考えていない」と封印したので、現役世代のための支出に現役世代の社会保険料負担を増やす奇妙な案になった。

この点では権丈氏の思想は一貫していて、政治家が受け入れない政策を提案しても意味がないと考えている。将来世代の生涯所得が60歳以上より8000万円以上も少ない世代間格差も「賦課方式の社会保障とはそういうものだ」と意に介さない。

国民民主党の資料

問題は少子化ではなく社会保障の負担

今の現役世代が損するのは、たまたま少子化の時期に当たった運が悪いだけで、制度の欠陥ではない。今から積立方式に変えるのは政治的に不可能だ――こう割り切る権丈プランは、事なかれ主義の岸田政権に適したリアリズムである。

だが、これから生まれる子供が親に比べて一生で8000万円以上も損するとわかっていて、月3万円の児童手当目当てに子供を増やそうと思う親がいるだろうか。むしろそんな財政的な幼児虐待はかわいそうだから、子供をつくるのはやめようと思う親が多いのではないか。

少子化は必ずしも悪いことではない。日本の人口密度は高すぎるので、50年後の人口が8700万人になっても、一人当たりGDP成長率がプラスなら、それほど貧しくなるわけではない。最大の問題は現役世代の負担が過大になって可処分所得が減り、社会保障が維持できなくなることだ。それを解決すると称して現役世代の社会保険料を増税する少子化対策は本末転倒である。