岸田首相は“重武装方針”を打ち出した後、本来なら核軍縮の土台を作るべきだった。しかし広島市の“平和祈願”をセレモニーに替えた。軍縮条約の準備をしたところで、核軍縮が進むわけではない。

5月22日付の読売新聞の世論調査を見ると、岸田内閣の支持率は56%と前回比で9%も伸びている。本来の軍縮会議方式に比べて、平和祈願方式の方が世論に訴えたということだろう。同調査では「自民党に他によい人がいない」が50%を占めている。

岸田首相自身は「総選挙のことは一切考えていない」と言っているが、総裁任期は来年9月までで、それまでに総選挙をやって総裁任期と重ねようとするのが常識だろう。

岸田氏の外交手腕が相当のものであることが分かった。全体として緩みがちだったG7各国の思考も、岸田首相が打ち出した。「デカップリング(切り離し)ではなく、多様化、パートナーシップの深化、デリスキング(リスク低減)に基づく経済的強靭性と経済安全保障へのアプローチで協調する」という一説は、素晴らしい。経済事態の経緯と今後の方針を明確に示している。

基本認識において各国も同感したのではないか。今後はこの大方針に反したものは弾(はじ)かれるということだ。

今回、インドのモディ首相が参加したのは将来の世界を占う事態ではなかったか。中国やロシアに反対することなく、モディ氏は自然にG7の流れに乗った。見事なインド外交だった。

屋山 太郎(ややま たろう) 1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。