2023年はアウディ TTがデビューしてから25周年を迎える。3世代にわたるTTモデルは、カーデザインの歴史を塗り替える役割を果たした。1998年にデビューして以来、このスポーツカーは、ドライビングの楽しさと明確なデザインランゲージにより、世界中の人々の共感を呼び起こし、1999年にはAuto Europe誌は、その年に発売されたニューモデルのベストカーにアウディ TTを選出した実績もある。
1990年代半ばに、ラグジュアリーモデルのアウディ A8が発売され、ブランドのポジショニングを高め、同時にモデル・シリーズの名称が徐々に変更され、アウディ 80はA4に、アウディ 100はA6となるなどブランドの向上と統一化が行なわれた。そして1994年に導入されたA4は、ヨーロッパNo.1の性能、品質を実現すべく投入され、同時にアウディの新しいデザインランゲージを具現した最初のモデルとなっている。
■ バウハウス・デザインを極める
1996年には、プレミアム・コンパクトモデル A3が導入され、1997年には第2世代のA6が発売された。いずれのモデルも新鮮で進歩的なデザインでカーデザインを革新したのだ。アメリカ人デザイナーのフリーマン・トーマスは、当時のアウディのデザイン部門責任者であったペーター・シュライヤーの指揮の下、純粋なスポーツカー「TTクーペ」をデザインした。
1995年9月に開催されたIAA(フランクフルトモーターショー)で、この「TTクーペ」スタディモデルを発表。モデル名のTTは、1907年初回開催の世界で最も古いモータースポーツイベントの1つであり、NSUとDKWが大きな成功を収めた伝説的なモーターサイクルレース、マン島TTレースを元にしている。さらにTTという名称は、1960年代のスポーティなモデル NSU TTも思い起こさせる。TTクーペのみが、その当時のアウディのネーミングのルールを意図的に採用しなかった理由は、このモデルの斬新さを強調することが目的であった。
1995年12月にTTクーペの量産化が決定された。エクステリアデザイナーで、スタディモデルから市販モデルへの移行に携わったトルステン・ヴェンツェルは、「市販モデルへの移行に際しては、プロポーションを含む数多くの技術仕様を細かく調整する必要がありました。市販モデルが発表されたとき、メディア各社は、スタディモデルからデザインが大きく変更されていないことを高く評価しました。これは私たちデザイナーにとって最高の賛辞となりました。最高品質のボディとラインを備えた走る彫刻作品そのものであり、TTのボディは、1つの大きな塊から削り出されたように見え、従来のバンパーオーバーハングのないフロントエンドが、そのクリアなフォルムを強調しています」と語っている。
最も顕著なデザイン変更は、リヤサイドウィンドウが設定されたことであり、モデルの印象が長くなり、スポーツカーとしてダイナミックに見えるようになった。
TTクーペ独自のシルエットを形成しているもう一つのデザイン要素は「円」。円は完璧なグラフィック形状である。このスポーツカーのエクステリアおよびインテリアのデザインには、数多くの円形の要素が採用されている。バウハウス・デザインにヒントを得たTTのすべてのラインには目的があり、すべての形状には機能がある。すなわちTTクーペは伝説のバウハウス・デザインの再現とも言える。
*バウハウス・デザイン
1919年にドイツ・ワイマール共和政時代に設立された工芸・写真・美術、建築デザインに関する総合的な美術学校が「バウハウス」である。その革新的なデザイン哲学によりモダン、合理主義、機能主義を追求した。
トルステン・ヴェンツェルは、「アウディのデザインは、常に“レス・イズ・モア (less is more)”の哲学に従っています。TTクーペのデザインでは、本質的なところまで削減することによって、このクルマ特有のユニークなキャラクターを引き出しています。これは、私たちデザイナーにとって大きなチャレンジであり、特別な仕事でした」と語っている。