サウジと中国
特に、多額の原油売却代金をドルで保有するサウジにとって、ロシアに対する米国の制裁は「対岸の火事」ではなかった。バイデン政権は人権問題などでサウジに厳しい姿勢で臨んでおり、サウジ王室が「明日は我が身」と考えても不思議ではない。昨年12月にサウジを訪問した中国の習近平国家主席は、同国との間で包括的戦略パートナーシップ協定を締結させ、中国輸出入銀行はサウジアラビア国立銀行に対して人民元建ての融資協力を開始している。
なかでも世界の注目を集めたのは、中国側が「サウジからの原油輸入を人民元で決済したい」と提案したことだ。サウジと世界最大の原油輸入国である中国が人民元建てで取引を始めれば、ペトロダラー体制にとって一大事だ。中国は今年3月、自らの仲介でサウジアラビアとイランの外交関係を回復させるなど、中東地域で米国に代わって影響力を行使するようになっている。
だが、サウジが原油取引を人民元で決済するつもりはないようだ。サウジ政府は1981年5月以来、通貨リアルをドルにペッグしており(1ドル=3.65リアル)、変動相場制を採用しているロシアのように決済通貨を変更することは容易ではない。自国の安全を保障してきた米国との関係をさらに悪化させることは避けたいとの配慮もあるだろう。
米国の波乱要因
ペトロダラーに代わる「ペトロユアン」の誕生は杞憂に終わると思えたが、その矢先に波乱要因が急浮上している。米連邦政府の債務は早ければ6月1日に法定上限の31兆4000億ドルに達するが、党派対立が激化している議会で上限の引き上げについての合意が得られる見通しが立っていない。上限を引き上げなければ、米国政府はデフォルトに追い込まれる。米国が誇る金融市場が大混乱することは必至であり、混乱に乗じて中国が人民元の基軸通貨化を進める可能性は排除できなくなっているのだ。
気になるのは「通貨覇権をめぐる争いが世界戦争の引き金になった」という悲しい歴史の前例があることだ。第2次世界大戦勃発直後の1940年、欧州戦争を優位に進めていたドイツが「欧州共通通貨」構想を提唱すると、英ポンドに代わってドルの基軸通貨化を目論んでいた米国は「トンビに油揚げをさらわれる」と大慌てとなった。ドイツとの対決姿勢が一気に高まり、米国の大戦参加の遠因になったといわれている。通貨をめぐる興亡が米中の決定的な対立を引き起こさないことを祈るばかりだ。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
提供元・Business Journal
【関連記事】
・初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
・地元住民も疑問…西八王子、本当に住みやすい街1位の謎 家賃も葛飾区と同程度
・有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
・現役東大生に聞いた「受験直前の過ごし方」…勉強法、体調管理、メンタル管理
・積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?