斬新であっても、そこに「本質」はあるか?

筆者には個人で飲食店を経営していて、仕入れは自らの愛車、初代トヨタ ポルテで行っていた知人がいるのですが、彼がポルテを買い替えようという時、どうせなら面白いクルマがいいというので勧めたのが今回紹介するプジョー1007でした。
大きな片側スライドドアで食材を横からも積めて便利とポルテを重宝する彼なら、運転席も電動スライドドアの1007はさぞかし興味津々…と思いきや、中古車情報サイトで写真を見た瞬間に即、「却下」。
運転席は普通のドアの方が便利だし、車内もポルテより奥行きがなく狭い、こんなの使えないよ…さすがは何だかんだで使い勝手にこだわる商売人、他にどれだけ面白いところがあろうと、「本質」を外したプジョー1007が失敗した理由は、まさにこれに尽きます。
世界初の両側電動スライドドア式3ドアコンパクトカー

このクルマをプジョーが作った時、遠く離れた極東の島国でスズキというメーカーが1988年に発売した、「アルト スライドスリム」というクルマの事を知っていたでしょうか?
そして、そのアルト スライドスリムが前期型の両側スライドドア式3ドアハッチバックから、後期型では運転席側前後ヒンジドア+助手席側スライドドア式の変則4ドアへ変更された事や、その意味も。
かつてスズキが実験的にラインナップしてみた軽自動車のコンセプトは、2000年代に入って新たに解釈され、日本ではトヨタ ポルテ(2004年)、フランスではプジョー1007(2005年)という2種の大型スライドドアつきコンパクトカーが生まれました。
ただしポルテは初代ヴィッツ系のプラットフォームを使い、体が不自由なこともある同乗者の乗降性や、助手席側前後席への人・荷物のアクセスを重視した「ユニバーサル・デザイン」で作られたクルマ(現在だとトヨタのJPNタクシーに近い考え方です)。
対する1007は新時代のMPV的なファミリーカーとして提案しており、アルト スライドスリム前期型の失敗要因だった手動スライドドアは電動化、「両側に電動スライドドアを持つ世界初の3ドアコンパクトカー」ではあったものの、その本質を理解していたかは疑問です。