戦争を止めているのは核戦力のバランス

戦争を止めているのは憲法第9条のようなきれいごとではなく、このように殺したら殺されるという戦力のバランスです。これは普通の法律で殺人を禁じているのとは違う原理で、みなさんが人を殺しても報復で殺されることはありません。警察に逮捕されて、牢屋に入れられるだけです。仇討ちを認めると相手がまた仇討ちする…という悪循環になるので、近代国家では仇討ちを禁じています。

ところが国と国の間では、仇討ちを禁じる法律がないので、悪循環が起こってしまいます。逆にいうと核兵器による仇討ちを禁じる法律がないから、それを使うことができないのです。もし核兵器禁止条約が本当に有効に機能して、アメリカが核兵器をすべてなくすと、喜ぶのは北朝鮮でしょう。

日本を守っているアメリカの核の傘がなくなると、条約に入らない北朝鮮は一方的に核攻撃できます。さらに「イスラム国」のようなテロリストが核兵器をもつと、条約と関係ないのでテロはやり放題です。このような非対称戦争は、原理的に止めることができません。

歴史的にみても、1928年の不戦条約で戦争は禁止されましたが、戦争はなくならなかった。罰則なしで戦争を禁止する条約は、どこの国も守らないからです。戦争を防いだのは条約ではなく戦力のバランスだったので、それがくずれた1930年代後半に、アジアでもヨーロッパでも戦争が起こりました。

残念なことですが、国際関係はいまだに「無政府状態」なので、すべての国を拘束する法律はつくれません。そういう努力は大事ですが、守られない条約をつくっても意味がありません。日本はアメリカの核の傘に入っているので、それを禁止する条約に入るわけにはいかないのです。

ジョン・レノンは「国がないと想像してごらん。戦争で殺される人はいなくなる」と歌いましたが、ジョンは殺されてしまいました。残念ながら、善意の約束だけで平和は守れないのです。