ウクライナ問題については、アゴラでも何度も取り上げてきたが、『民族と国家の5000年史~文明の盛衰と戦略的思考がわかる』(扶桑社 5月28日発売)では、世界史の各時代においてロシアとウクライナで何が起きていたのかから説き起こし、また、現代において起きていることも世界史の中で位置づけている。

私のこの問題についての理解は大体こんなところだ。

① まず、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、完全な国際法違反であって、非は一方的にロシアにある。それは真珠湾攻撃に至った事情にいくら米国側にも問題があっても、ああいう形で手を出したら何を言っても弁解にならないのと同じだ。ただ、国際法の正義が貫徹できるなら中東問題も簡単に解決するだろうが、そうさせないようにしているのはアメリカ側だ。

② 歴史的に見ると、ルーシ民族国家のルーツであるキエフ大公国に始まる歴史を引き継ぐのはロシアであるし(たとえばキエフ大主教がモスクワに移転してのちにモスクワ大主教に改称したのでキエフ大公国が二つに分かれたのでない)、ロシアの周辺部でヨーロッパ諸国の支援を受けてロシアからの自立を図る勢力が現れて騒乱が繰り返されてきたのであって、そうした歴史の一幕に過ぎず、どっちが悪いともいえない。

③ 欧米諸国がウクライナを支援し、場合によってはNATOやEUに加盟させようとしているが、これまで仏独などがうしろ向きだったのは、いったいロシア国家とヨーロッパとの関係をどのようなかたちで安定させるのか、欧米にもビジョンがないからだ。

④ 日本に対してウクライナはこれまでむしろ敵対的な行動が目立ってきたし、隣国でもないから共同利益もない。一方、ロシアとは平和を維持したいし、経済的な結びつきも強い(旧ソ連においてウクライナはフルシチョフやブレジネフを出すなど中核的な構成員であり、ソ連の悪行についてロシアを恨んでウクライナを同志とする理由はない。シベリア抑留と言うがウクライナにも抑留されていたし、北方領土でもロシア人よりウクライナ人のほうが多く住んでいる)。

⑤ 欧米に援助されながら、欧米人は血を流さずに同じルーシ系民族同士が破滅的な戦いをするというパターンが、台湾、韓国などに勇気を与えるかは疑問である。来年の台湾総統選挙、韓国総選挙ではウクライナ情勢が野党を利する可能性がかなり大きい。