外敵から魚が群れで逃げるのはなぜか考えたことはあるでしょうか?

これまで、魚や動物は人間のような感情は持たないと言われていました。

しかし、魚が「群れで逃げる」様子を見ていると、それぞれが外敵の気配を感じ、たまたま同じ方向に逃げているようには感じられないことがあります。

もしかしたら、絵本のスイミーのように魚にも「怖い」という気持ちや魚同士での意思疎通があるのかもしれません。

昨今の研究では魚も恐怖や痛みを感じ、それに共感する可能性があると報告されています。

また、最新の研究においてその共感には愛情ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」が関わっていることが明らかになりました。

この研究は、科学雑誌『Science』に2023年3月23日付けで掲載されています。

魚は別個体の恐怖を感じることができる

ゼブラフィッシュ
credit:Pixabay

北リオグランデ連邦大学のプリシラ・ フェルナンデス・シルバ氏らの研究グループは2019年1月に発表した論文で、ゼブラフィッシュが他の個体の恐怖を感じ取り、その個体と同じように行動することを報告しています。

またこの実験は同じ水槽でしばらく一緒に暮らした「親しい魚同士」と、一度も一緒に暮らしていない「見知らぬ魚同士」で行われ、「親しい魚同士」の方が恐怖が伝染する割合が高かったというのです。

別個体が恐怖する様子を見て同じ行動をとる

逃げるゼブラフィッシュ
redit:Pixabay

実験では観察者と実験者となる2匹の魚をそれぞれ別の水槽にいれ、お互いの様子が見えるようにしました。

その後、実験者である魚の水槽にのみ魚が嫌う物質を入れたところ逃げ惑うような様子が見られたと言います。

そして、それを見た観察者である魚は、何も投与されていない水槽の中にいるにも関わらず実験者と同じ行動を取りました。

親しい魚ほど共感の割合は大きくなる

図:実験に使われた水槽
credit:Fear contagion in zebrafish: a behaviour affected by familiarity

実験者と観察者の行動は、2匹の親しさによって一致の程度が異なっていました。

7日間同じ水槽で過ごした魚同士は、見知らぬ魚同士よりも、行動が一致する傾向にあったのです。

相手が身近な存在であるかどうかが共感の程度に関わってくるという結果は、魚にも人間に近い社会性があることを示唆しています。

しかしそもそも、これまでの通説では魚は「恐怖」どころか「痛み」すら感じないと言われていました。

次の章では、なぜ魚に痛みがないと言われていたのか、また実際にはどうなのか、ご紹介していきます。