「戦術家ではなく、良い指導者に」
ー書籍では、サッカーの8つの真理を解説されています。まとめるのが最も難しかったのはどれですか?
レオ:本を作る苦しみとは違う話になってしまいますけど、僕がYouTube始めたての頃にやっていたのは、配置論がメインでした。「ここにこの選手がいることで、こういう現象が起きる」みたいな。これを現場で活かして活躍したいと思っていたのですが、そもそも配置論は、選手の技術が最高峰のレベルだからこそ成立するものなんです。
料理に例えると「最高級の食材は揃っている。あとはどういう調理が一番良いか」という話。食材が揃ってないと、どんなに良い調理をしても美味しい料理にはならない。でも僕が指導者として現場に出た場合、最高級の食材にあたるスター選手たちを率いるわけではないですよね。そうなると食材(選手たち)を育てなければならないし、「どうやって良い食材にするか」という課題に向き合う必要がある。なので(プロクラブの監督とは)全く違う仕事です。
戦術家ではなく、良い指導者になるために何が必要か。逃げずにこれに向き合ったからこそ「こういうパスの出し方をすれば相手に読まれない」「プロ選手のなかでも一握りがやっているパスの出し方にはセオリーがある」といった真理に気づき、言語化できました。これが指導者としての腕の見せどころなんですけど、うまく集約されて本になりました。大変だったのは、本として集約される前段階でしたね。
ー全てまとめるのに、どれ位の時間や期間を要しましたか?
レオ:僕が毎週作っている「蹴球学」の授業から、木崎さんが優先順位を決めて抜粋して下さりました。なので木崎さんに訊いてほしいんですけど、めちゃくちゃ時間がかかったと思います(笑)。30分から40分ある蹴球学の授業を、既に70本くらい作っています。「僕が特に大事だと思った授業を抜粋しましょうか」と木崎さんにお話ししたら、「全部観ます」と仰って下さって。「本にするなら、まずこの部分から」という木崎さんのチョイスが、僕にとってはありがたかったです。
「理論を明かすことの抵抗や躊躇いは無い」
ー書籍では、ボールを保持している選手の正しい体の向きについて言及された「正対理論」など、合理的かつ実践的なノウハウを解説されています。日本でこれらを試みたり実践しようとしている、もしくは考え方が近いチーム、監督、選手は挙げられますか?
レオ:ボールを止めて蹴る、そのスピードと精度に関しては風間八宏さん(元川崎フロンターレ、名古屋グランパス監督)は凄いと思います。正対理論は『蹴球計画』(レオ氏が参照していたブログ)に載っていたものですね。正対理論をもっと分かりやすく噛み砕いて、尚且つ技術論だけでなく、フォーメーションや周りのポジショニングにまで理論を発展させたのが、今回の本の内容です。
サッカーという競技は、今までいろいろな人が積み重ねてきて今のところに帰結しています。このなかで放置されていた部分の解像度を上げたというイメージですね。僕自身がいろいろなサッカー書籍を読んでいるわけではないので、内容が被っていることに気づかないだけかもしれません。ただ「これは、あの人が言っていたことのもっと深い話だ」というのが、いろいろな書籍を読んでいる人には感じて頂けるでしょうし、(他の書籍よりも内容が)浅いというのは絶対にない自信があります。
ーレオさんが監督を務めていらっしゃるシュワーボ東京では、書籍で紹介されている真理を落とし込んでいると思います。ここまで具体的に理論を明かしてしまうことに、抵抗や躊躇いは無かったですか?
レオ:無いですね。YouTubeの生配信でも喋っているので。あと、本で明かしているのは確かにチームの作戦の一部ですが、それを知られたところでこちら(シュワーボ)が機能しなくなるわけではないので。この本に書いてあるのは、自分たちの攻撃の選択肢を増やすためのセオリーと、相手の攻撃の選択肢を減らすための守備のセオリー。正対理論であれば、ボール保持者がへそを相手に向けることで、左右へのパスやドリブルの選択肢が増えるし、シュートにも応用できるみたいな。これは普遍的で、本来別のチームでも使えるものです。
最近失点が増えてしまったミケル・アルテタ監督擁するアーセナルも、失点が少なかった時期はロックとT字の守備原則を守れていました。正対理論についても、アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)、ベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)、リオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)と、うまい選手はみんな実践しています。これを明かすことで今サッカーをプレーしている人、観ている人たちが「メッシたちが特別に見えるのは、この原理原則を実践しているからなんだ」と実感できる。日本のサッカーが進化するために、今回の本の内容が広まってほしいと僕は思っています。