バイデン米大統領はプーチン大統領が昨年2月24日ウクライナ侵攻を始めた直後、「米国はロシアとウクライナの戦争に軍事的関与はしない」と述べている。その結果、プーチン氏にフリーハンドを与えたような状況となってしまった。バイデン氏には、米軍がウクライナ戦争に関与すれば、ロシアとの正面衝突となり、第3次世界大戦が勃発するという危機感があったからだろうが、戦略としては不味かった。バイデン氏は軍事的冒険に乗り出したロシアに対して、米軍のパワー、同盟国の軍事力を明確に示し、ウクライナ侵略には大きな代価を払わざるを得なくなると警告を発すべきだった。外交力も重要だが、パワーの裏付けのない外交は空振りに終わることが多い。

オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク外相は16日、国際会議「決断の時ヨーロッパサミット」で、「プーチン大統領は私たちを白昼夢から目覚めさせ、歴史の中に押し戻した。彼は私たちに世界の出来事を違った見方で見るよう促した」と述べ、「私たちが見ているものはおそらく好ましくはないが、真実の瞬間は役に立ち、それは力の瞬間となる可能性があるからだ」と説明し、「われわれはプーチン氏にある意味で感謝しなければならない。“力の言葉”を学ばなければならないことを教えてくれたからだ」と語っている。

歴史は私たちに教えている。冷戦時代、共産国、独裁国は軍事力で優位にある西側諸国に対して、寛容、対話、平和というソフトな言葉を多用し、デタント(緊張緩和)攻勢をかけた。そのソフト攻勢に騙された西側は代償を払わざるを得なかった。ロナルド・レーガン米大統領(任期1981年~89年)がソ連共産国との冷戦で勝利できたのは、戦略防衛構想(スター・ウォーズ計画)を提示し、米軍の軍事的優位をモスクワに発信したからだ。

同じことが、現在のG7にも言えることだ。プーチン大統領、習近平国家主席、そして北朝鮮の独裁者金正恩総書記の野望を粉砕するためには、G7の結束強化とともに、具体的にはG7の軍事力のパワーアップが急務となる。

米韓両国は4月、「ワシントン宣言」を出し、そこで「米韓の核戦略計画に関する協議体」の新設が盛り込まれた。韓国では目下、北朝鮮の核開発の脅威に直面しているため、米軍の核共有(ニュークリア・シェアリング)論が活発化している。一方、米英豪による新しい安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」が創設されている。同じ価値観を有する同盟国の軍事パワーの共有だ。

G7が中露の軍事的挑戦に対し、力の優位を誇示できれば、広島サミットは岸田首相のいう「歴史的転換期に開催された重要なサミット」となるだろう。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。