それはフランクフルトの程近く、ボーンハイム散歩の時でした。その際のレポート記事にも紹介したBioのパン屋さん「Denningers Mühlenbäckerei(デニンガーズ・ミューレンベッカライ)」が何とはなしに気になり、季節の味・かぼちゃのパンが出ていたのでたまたま購入してみました。家に帰り、何も考えずに食べたら、衝撃が走りました。何これ!めちゃくちゃ美味しい!!
お店のパンフレットを見ると、ますますこのお店に興味津々。夜通しパンを焼いているパン屋さん!?パン作り、粉挽きからお店でしているなんて珍しくない?もういろんな想いが湧いてくる!
もっと深い話が知りたい!その一心でメールをすると、なんと取材OK。社長のクラウス・デニンガーさんにお話を聞くことができ、そのまま店内併設の工房まで見せてもらいました。

目次
デニンガーズ・ミューレンベッカライとは?
夜から始まるパン職人のお仕事
デニンガーズ・ミューレンベッカライとは?
ー 1902年に初代がオープンしたベーカリーを、1999年、4代目となったクラウス・デニンガーさんが素材を全面的にオーガニックに変更し、「デニンガーズ・ミューレンベッカライ」として新しくスタートさせました。今では一般的となったBio製品ですが、当時どういった経緯で導入したのでしょうか?
デニンガーさん(以下、デニンガー) : 私はまず世界を旅するクルーズ船でパティシエとして経験を積んでいました。そのとき、パンが大きな企業で焼かれ、たくさんの添加物が使われ、機械にとって焼きやすいようにパンが変わっていっていることに、疑問を感じていました。しかしBioのパン屋に転職し、それとは違う良い焼き方があることを会得。さらにベルリンで食品学を勉強し、プロセスや理論を理解し、独自のレシピを考えるようになりました。パン職人のマイスター(国家試験を突破した、後進の育成もすることができるエキスパート)となって、独立した際に、Bioの道に入ったことは、自分にとって当然の成り行きでした。
また、私の両親のパン屋は、継いだ当時、とても小さなパン屋でしたが、100mごとにパン屋があるような街に立地していたため、パン屋の競争は熾烈でした。その中で差別化を図るためにも、Bioに特化したのです。
もちろん当時は大変珍しいもので、ほとんどBioのパンは売られていませんでした。そのため周囲からの支援はないし、誰もが私のすることに疑問を呈してきました。今ではどのパン屋でもBioのパンを焼くようになりましたけどね。
ー 小麦や穀物をお店で挽いてるのも珍しいと思いますが、これは初代からの伝統でしょうか?
デニンガー : 今でもお店で挽いているのは、かなり珍しいです。しかし、お店で挽き始めたのは、私の代に移る1999年から。当時はまだ、Bioの小麦や穀物を扱っている卸売業者がなくて、地域のBioで作っている農家に直接取引をお願いしたのですが、農家には製粉機がなかったのです。そのため、お店に製粉機を導入しました。
この利点としては、直接農家と取引することで、どこの農家や畑から小麦などが来ているか透明性を持てること。また、私たちの取引農家は全て50〜60km圏内にあり、地域密着型のお店と言える点。こういった流れで、店名もほかのパン屋との差別化を図るため、Mühlenbäckerei(製粉パン屋)としたのです。

<デニンガーズ・ベッカライと提携する100%Bioの農場。化学肥料を使わない良質な土壌から採れる健全な素材が、人々の健やかな成長を促す>

<2017年、自社のDinkel Urkruste(スペルト小麦パン)が、ドイツ最大のBio生産者団体「ビオランド」で金賞を受賞。喜びの笑顔を見せるクラウス・デニンガーさん>
夜から始まるパン職人のお仕事

ー 従業員35人を抱えるデニンガーさんのお店では、接客、マーケティング、配送など様々な役割がありますが、その中でもパン職人さんの1日の仕事の流れを教えていただけますか?
デニンガー : 私どもでは、保存料、化学調味料などを一切使わないので、昔からの伝統通り、すべてのパンをこちらの工房で夜に焼きます。昼にもう一度焼き直すことをせず、しかし、しっかり夜まで美味しくいただけるよう考えて作っています。
まず、生地をこねるパン職人が19〜20時から仕事を始めます。残りのパン職人たちは、22〜23時にかけてやってきます。最初に取り掛かるのはBrot(大型パン)。生地を寝かしたり、焼いたりする時間がかかる、とくに重めのVollkornbrot(全粒粉パン)から始まり、Brötchen(小さめのパン)に移り、最後に軽めのクロワッサン、ブドウパン、Plundergebäck(甘めのパン)などを焼きます。朝5時には、オーブン仕事が終了。あとは、ほかの店舗にも卸しているため、他店舗分のパンを仕分ける作業へ。パン職人の仕事はこれで以上です。

<ビオランドで金賞を受賞したDinkel Urkrusteは、全粒粉スペルト小麦を50%含有!>
ー 工房で焼かれるパンが、平日は約1,000個、週末は約2,000個もあるのだとか!Alnatura、BasicといったBioスーパーマーケットなどにも卸されているそうですが、現在何か所で販売されているのでしょうか?
デニンガー : 30〜40の顧客に配達していますが、どのお店も、2〜3のパン屋と契約しており、その都度いろいろなパン屋から仕入れているので、その一端を担っているだけです。焼き上げたパンの68%は契約のBioスーパーマーケットなどへ配達、残りの32%はこの本店とSeckbachの支店で販売しています。
ー お店で扱っているパンやケーキの種類はどのくらいありますか?
デニンガー : 私たちが一番力を入れているのはBrotで24種を揃えています。そのほかBrötchenが17種、ケーキが6〜8種。ケーキの種類は季節によって手に入りやすい果物が違うので、その都度変わります。例えば春ならイチゴやラバーブのケーキ、冬はチョコケーキの種類が豊富になります。もちろん果物も地域のものにこだわっています。また、日持ちする焼き菓子(クッキーやナッツバーなど)は8種類あり、こちらは毎日1、2種ずつ順番に焼き足していっています。
ー デニンガーさんはパティシエをされていたので、その経験が今お店に並んでいる商品に活かされているのでは?
デニンガー : ホテルをはじめ、私をBioの世界に導いた、ミュンヘンのFritz Mühlenbäckereiなどでパティシエをしていました。その際の経験は、もちろんこちらのケーキに活かされています。商品開発に携わっており、中でも季節商品の多くを開発しています。ただ、カフェではないので、やはり主役はパンですね。