商談や記者会見などの場で、リアルタイムに外国語を日本語訳して伝える逐次・同時通訳(※1)のお仕事。

※1 逐次通訳は、話し手の話を合間合間で止めながら訳す仕事。同時通訳は、話し手の話と同時進行で訳す仕事。

橋本美穂さんは、これまでに英語の通訳として6000件以上の案件を担当。ふなっしーやピコ太郎が外国特派員向けに行った記者会見で通訳も務めました。

通訳の仕事に就くまでの大変さや仕事の魅力、AIによる翻訳技術が進歩する中で今後の通訳業界に対してどう考えているのかといった点などについて、U-NOTE編集部の菓子が業界のプロである​橋本さんにインタビューしました(全3回中第1回)。

(Professional Report by U-NOTE編集部・菓子翔太)

安請け合いした初通訳、失敗

―――通訳のお仕事に就かれた経緯を教えて下さい。

実は私、“通訳になりたい”って当初から思っていたわけではなかったんです。帰国子女なので、もともとある程度英語を話せていたんです。でも、もっと広い世界で、とりあえず大企業で仕事をしてみたかったのでキヤノンに就職して、本社で総合職として仕事をしていました。

ある時、社内の国際会議での通訳を上司に頼まれたんです。「英語が話せるから、きっと通訳ができるだろう」と思って安請け合いをしてしまったんですが、本番になると全然できなくて。何で英語が話せるのに、こんなに通訳できなかったんだろうと思って、すごく悔しかったんですね。

その理由がとにかく知りたくて。(通訳の)技術を知ってみれば、なぜできなかったのか分かるんじゃないかと思い、都内の通訳者養成学校に通い始めたんです。卒業までに3年半かかりましたね。

通訳は“スプリット・アテンション”

―――橋本さんご自身は、通訳になるにあたってどのように勉強されたのでしょうか?

通訳学校では、ものすごく基本的な通訳技能を教えられます。私が訳せなかった理由って、英語が話せても通訳技能がなかったからなんです。聞いたことを記憶する力や聞いた話を一言で要約する力を鍛え、自分が全く知らない業界の話を通訳する際の準備方法や専門用語の調べ方を教わりました。

逐次通訳の上に同時通訳のクラスがあります。これは(話し手の話を)聞きながら訳すスタイルであるため、同時性を身につける訓練がありました。1つのスピーチを聞きながら全然関係ないものを読み、読んだものと聞いだものの両方を理解できているか、100からカウントダウンしていきながら1つのスピーチを聞いて理解できているか。脳を2~3つに分けて使う方法を訓練しました。


橋本さんがお客さんのもとに向かう際に持っていく同時通訳レシーバー。いつも荷物がいっぱいとのこと

のちに私が通訳学校の講師を務めていた時期、生徒さんに対して「スプリット・アテンション」という言葉を使いました。これは100ある集中力をいくつかに分けるという考え方です。この感覚を身につけてほしいと説明していました。例えば「聞く」に30%、「読む」に20%、「話す」に30%、「話した結果を観察すること」に残りの20%の集中力を使うというマルチタスクですね。

―――それに慣れることはものすごく大変でしたか?

はい、人にもよるとは思うんですけど難しかったです。クラスで10人中1~2人位しか進級できないんですよね。難しい専門用語がいっぱい含まれている文章を聞きながら話すことは、相当な技術がないとできないんですよ。何回か私もくじけて。私は逐次通訳のクラスでも1回くじけて、進級テストに落ちて。もうどうしよう、やめようかなと何度も思いましたね。