「自分は一体、誰か」、「自分はなぜ生きているか」等、自身のアイデンティティに悩む若者は少なくない。アイデンティティに悩むのは個々の人間だけではなく、国も同じだろう。世界の多様化の中で、国もそのオリエンテーションに苦悩する。時代の流れに乗り切れずに、悩むケースが出てくる。

UBSに買収されたスイスの第2銀行「クレディ・スイス」(「クレディ・スイス」の公式サイトから)

新型コロナウイルスのパンデミック(世界流行)が席巻し、世界は苦戦した。そしてパンデミックがようやく峠を越えたと思えた時、今度はウクライナ戦争が始まった。ロシア軍のウクライナ侵略は単にロシアとウクライナといった旧ソ連共和国間の戦争ではなく、世界を巻き込む大戦の様相を深め、エネルギー危機、食糧問題など国際レベルでその解決が求められてきた。世界は第3次大戦に突入してきた、といった論調もメディアにみられる。

ドイツのショルツ首相は時代の挑戦を「Zeitenwende」(時代の変わり目)と呼び、ロシア依存のエネルギー政策から再生可能エネルギーへの脱皮に腐心している。第2次世界大戦後から続いてきた安保政策も180度転換し、軍事費を増額し、ウクライナへの武器供与でも積極的な役割を果たしてきた。一方、北欧諸国に目をやると、スウェ―デンとフィンランドの両国は過去の中立主義から北大西洋条約機構(NATO)へ加盟と集団安全保障体制に舵を切った。当事国にとって文字通り、時代の変遷に直面し、新しいアイデンティティを模索することになる。

アルプスの小国スイスも例外ではない。冷戦時代、世界から追われた人々の逃げ場を提供してきたスイスは中立国として世界の紛争や戦争からは距離を置いてきた。同じ中立国のオーストリアと共に“アルプスの聖地”と呼ばれてきた。そのスイスがここにきて国のアイデンティティで悩み出してきている。ウクライナ戦争ではその中立性が揺れる一方、クレディ・スイス銀行の没落は金融大国スイスのイメージを傷つけたばかりだ。