日本には、実親と暮らせない子どもが約4万5000人存在します。そのうち、里親の家庭で暮らす子どもは約5600人しかいません。

今回お話を伺った千葉彩さんは、歯科医師として働きながら「里親」の認知を広げるためにさまざまな活動を行っています。

ーー千葉 彩
一般社団法人『RAC』代表理事。歯科医師、医療系ベンチャー勤務。グロービス経営大学院 経営研究科卒(MBA取得)。社会的養育、特に「養育里親」(里親)を広く知ってもらうための情報発信を行っている。

里親の普及団体『RAC』を立ち上げる

早速ですが、千葉さんは現在どういった働き方をされているのでしょうか?

(千葉彩さん以下、千葉):週3日は訪問歯科医師として、高齢者の介護施設や居宅に伺い診察・治療をしています。月に1~2日は製薬のベンチャー企業の社外取締役として働き、週1~2日は『RAC』での活動をしています。

RACでは里親制度の普及活動をされているそうですが、立ち上げの背景にはどんな想いがあったのでしょうか。

千葉:大学生の頃、歯学部に通っていたこともあり、周りには裕福な家庭で育った人がほとんどで、お金や家族関係で困っているという話を聞いたことがありませんでした。

そんな中、親がいなくてお金もない子どもたちはどうやって困難を乗り越えるのか?という疑問を持ち調べてみると、自分が想像していた以上に大変な生活をしていることがわかりました。

仕事をしながらでも子どもたちの支援ができる里親という制度を知り、将来は歯科医師をしながら、里親になると決めました。

里親というと、「理想の家族を作る必要がある」、「親としての責任を一生涯背負う」など少し重たいイメージがありますが、実際には、国からの援助を受けて短期間子どもの世話をする、という寮母さんのようなかたちも存在します。

しかし、短期の里親や数ヶ月に一度子どもを預かるといった制度はまだまだ認知度が低いのが現状です。
 

Fledge
(写真=Fledgeより引用)

子どもが求めているのは、頼れる大人の存在と生活の場

たしかに、国からの援助があったり、短期間であれば自分でも里親になれるかも!という気がしてきます。

千葉:子どもたちの中には、「親」が欲しいのではなく、頼れる身近な大人の存在を必要をしている場合もあります。ある一定期間の受け入れ先として親戚のような存在が各地域にいれば、支援する側の負担も比較的軽くなります。

子どもの年齢によっても、里親に求めるものは違ってきそうですね。

千葉:中学生や高校生の場合、あと数ヶ月でその学校を卒業できたのに、保護されてしまったために、転校せざるを得なくなる場合もあります。そういった子どもが必要としているのは、親の存在よりもまず生活を確保できる場所です。

学校に通うために部屋を貸してほしいと願う子どもと、部屋がひとつ余っているのであれば貸すことは問題ないと考える大人が、もっとうまく出会っていけるように、ぜひ多くの方に里親制度を知ってもらいたいです。

RACは具体的にどんな活動をされているのですか?

千葉:『里親ひろめ隊』と『近所de過ごし隊』というふたつを軸に活動しています。

『里親ひろめ隊』は、短期の里親制度があることや、定期的に子どもを受け入れる「週末里親」の認知を広めるために、イベントなどを開催しています。

イベントのゲストには、直接里親ではないけれど、実は仕組みとして里親のような役割を担っている人を呼ぶことが多いです。前回はシェアハウス、高齢者向けの住宅などを運営している方をお呼びしました。

『近所de過ごし隊』は、保護を必要としている子どもたちが、近所の協力家庭で過ごせるように、周りの家庭と交流できる仕組みづくりをしています。

イベントに参加される方はどんな方々なのでしょう。

千葉:元から里親に興味がある方もいますが、最近では、児童虐待の事件の影響も大きく、ニュースを見て心を痛めた方が、自分にも何かできないかと考えてボランティアに参加していただくということも多いですね。
 

Fledge
(写真=Fledgeより引用)

※社会的養護…保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。