韓国は「T- 50練習機」を「インドネシア、フィリピン、タイなど」に、「K9自走砲」を「フィンランド、インド、ノルウェー」に輸出済で、「オーストラリア、エストニア、エジプト」も導入予定としており、「価格と納期、米露中との関係」が導入理由だそうだ。「蝙蝠外交」が奏功したということか。

韓国とオーストラリアの関係についても、伊藤は昨年5月の論文で詳説している。その副題は「アメリカ同盟国間軍事ネットワークへ組み込まれる韓国軍」。

これまで「韓国空軍が参加する戦闘機による外国での共同訓練は、米国・アラスカ州で行われる『レッド・フラッグ(Red Flag)』に限られていた」が、伊藤は昨年11月上旬に元豪空軍関係者から、「豪空軍主催の多国間空軍合同演習『ピッチ・ブラック(Pitch Black)』に韓国空軍機が参加した」との情報を得たという。伊藤は「ピッチ・ブラック」をこう解説する。

同演習は航空自衛隊も参加する日米韓の3カ国共同演習(2021年に韓国は3年ぶりに参加)で、在韓米空軍のF-16戦闘機やA-10対地攻撃機も参加する対北を想定したものである。今回のピッチ・ブラックでは、韓国空軍の戦闘機と空中給油機が赤道を越えてダーウィン(豪)まで長距離移動したことにより、韓国空軍戦闘機の展開実績がインド太平洋地域へと一気に広がったことになる。

14年から16年にかけて韓国政府は、中国への配慮から豪州政府が求めていた各国国内での共同訓練を想定した訪問軍地位協定の締結を拒否していた。これを一転させたのが前述の文政権による「新南方政策」と防衛産業装備品の輸出政策であり、それはまさに安保と経済の一石二鳥という訳だ。

17年11月には、韓豪間で2プラス2が開かれ、20年には「モリソン政権が陸上軍事アセットに多くの国防予算を投資する根拠となった『Land400』事業が立ち上がり、新しい自走榴弾砲導入事業の選定企業にK-9を生産する韓国防衛産業最大手のハンファ社が選ばれた」。

安倍外交の成果である「自由で開かれたインド太平洋構想」や戦略対話を主とする日米豪印の「クアッド」ばかりが日本で強調される裏で、安保と経済を融合させた韓国の「新南方政策」が着々と成果を上げている実情が浮かび上がる。

日本の安全保障の足かせは、軍事研究を忌避する学術会議や、非核と防衛装備移転の両三原則の存在であろう。が、核を持つ独裁国家が隣に存在する以上、米国から促されるまでもなく、日韓が未来志向で共にその脅威に対抗してゆくことが、安全保障における日本の国益に資することは論を俟たない。

就任一周年を迎えた尹大統領は、「自由民主主義の価値を共有する両国が交流・協力しながら信頼を築いていけば、韓日関係が最も良好だった時代も超え、新しい未来を開拓できる」と演説で述べている。日本がそれに呼応すべきなのは自明だ。

4年後に尹政権が変わればまた元に戻るとの論もあるが、尹の後継が「国民の力」から出ないと誰が言えるか。韓国が歴史認識を変えるには、日本の統治を不法とする韓国憲法の改正と反日教科書の是正が必要だ。が、日本の改憲論議と教科書の左傾化傾向を見れば、それが如何に時間の掛ることか知れる。

安倍政権下の慰安婦合意は、我が国の保守派すら反対する中、当時の岸田外相と韓国の尹炳世外相の間で結ばれ、今も韓国を縛っている。首相となった岸田も、この機を捉えて、安倍外交の強かな先例を踏襲するところから積み上げてゆくべきだ。