尹訪米の本題に入れば、一番の成果は「ワシントン宣言」だ。尹は「韓米安保同盟は核をベースにした新しいパラダイムにアップグレードされた」、「米国の核の運用に関する情報共有、共同計画、共同実行のプロセスでワシントン宣言をしっかり具体化していくことが重要」と強調した。

まさに「中央日報」が昨年主張した、核兵器を保有する共産党一党独裁国家である「北」と「中国」への抑止力として、最も効果的である「核をベースとする米韓安保同盟」の「アップグレード」の「具体化」を緒に就けたという意味で、米韓安保は日米安保の一歩先を行くかのようだ。

韓国の安全保障がどう日本に先行しているかについては、キヤノングローバル戦略研究所の伊藤弘太郎主任研究員が、21年9月と22年4月の論考「日本が知らない米韓関係のファクトフルネス」前後編で論じている。前編の書き出しはこうだ。

21年9月15日、韓国は海軍潜水艦からのSLBM発射実験を成功させた。アメリカは今回の実験成功に関して公式的な反応を示していない。去る21年5月21日に行われた米韓首脳会談では、米韓ミサイル指針が撤廃され、韓国のミサイル開発に関する制限がすべてなくなったことから、アメリカの立場は韓国によるSLBMを含めた弾道ミサイルの開発を「容認した」と解釈して間違いないだろう。

しかし、これまで韓国による一方的、かつ信義を疑う振る舞いに翻弄されてきた我が国では、いつしか「(我が国だけでなく)アメリカも韓国の振る舞いにはうんざりしている」、「アメリカが同盟国として最も重要なパートナーとしているのは日本」といった固定観念が生まれていないだろうか。現実は我々が思う以上に、アメリカは自国の国益のために韓国という存在を重んじて活用しようとしているのではないだろうか。

米韓ミサイル指針の撤廃については、筆者も21年5月27日の論考で以下のように書いた。

中国は「ミサイルガイドラインの終了」にも無反応だ。これは79年当時、米国がミサイル技術提供の見返りに韓国に課した制限で、この終了により韓国は射程800km以上のミサイル開発を行える。中国と北にとってはTHAAD並みに気に食わないはずだが、文の腹を読んでいるのだろう。

中国が「文の腹を読んでいるのだろう」との表現からは、筆者が「従北」・「従中国」の文の韓国を侮っていることが窺え、今は不明を恥じ入るばかりだ。つまりは文在寅の時代も、安全保障や軍事技術、そして武器輸出などに関する限り、韓国は強かだったということ。

韓国のミサイル開発は朴正熙政権下の71年に遡る。朴は75年までの国産地対地ミサイル独自開発を指示、7年後に「白熊」の発射実験に成功する。が、高度成長期の日本や今の中国がそうであるように、この開発も米が供与したナイキ・ハーキュリーズをリバース・エンジニアリングしたものだった。

実験成功を知った米国は、韓国の核保有を懸念して朴政権に圧力をかけた。が、結局は「韓国側のメンツを立てつつ、保有する弾道ミサイルの射程距離と搭載可能な弾薬量に制限を加えさせた。これが日本では一般的に知られていない米韓ミサイル指針の起源で」あり、その制限が40余年を経た21年に解除された。

レーダー照射やGSOMIAの破棄など軍事面でも反日を露わにし、またトランプにも嫌われた従北の文政権だが、一方でTHAAD配備に対する中国の経済報復の緩和策として進めた「新南方政策」:インド太平洋戦略としての対インド・ASEAN外交に、米国は理解を示していた。

経済分野が主眼と目された「新南方政策」だが、軍事面でも「インド・東南アジア諸国への防衛装備品輸出に積極的な姿勢を続け」、「19年以降は新南方政策の射程を豪州とニュージーランドにまで広げ、同様に両国との防衛産業協力も発展させ」ていたのだ。

20年以降の「過去3年間の米韓の防衛産業協力進展に主導的な役割を果たしたのは韓国防衛産業最大手のハンファ」で、同社は「K-9自走砲のグローバル市場でのセールスに成功しており、昨年は豪州との契約にも成功した」(上記は何れも前掲伊藤論文)。

「ハンファ」は14年に旧サムスンテックウィンを買収した電機メーカーで、光学機器、製造装置、機械、軍事機器、航空エンジンなどを生産している。

昨年12月20日の「ニューズウィーク」は、韓国の22年暦年武器輸出額が200億ドルを超え、前年の2.8倍と報じている。ロシアのウクライナ侵略に絡み、隣国ポーランドは、韓国と「K2戦車980両、K9自走砲648門、FA-50軽攻撃機48機、多連装ロケット砲288門」など147億6000万ドルの購入契約を結んだ。