ただ、エルドアン政権の退陣がバラ色の未来をもたらすと考えるのは早計だ。クルチダロールは政権を獲得しても、議会運営には苦労するだろう。政党・陣営別の投票先に関する各社の調査では、ほとんど与党がリードしている。中には、クルド派と合わせても与党に届かない調査結果もある。さらに、エルドアンは情報機関、警察など治安部門を始め、国家機関を私物化してきた。これをCHPが取り戻すのも容易なことではない。

クルドゲリラが「内戦か? クルチダロールか?」と呼び掛ける与党支持者による風刺画Twitterより
こうした中で、トルコに住む人々の間では内戦の不安が広がっている。トルコ語で「トルコ内戦 2023年(Türkiye iç savaş 2023)」と検索をかけると、主要メディアの記事も含め多くの結果が表示される。トルコは建国以来、トルコ人とクルド人の内戦の危機を孕んできた。ただ、クルド人が部族問題で分裂し、トルコ人が反クルドで一致するうちは安泰であった。
エルドアン政権の20年間で状況は劇的に変化した。エルドアンが筆頭のイスラム主義者と世俗派は先鋭化し、一方でクルド人は団結に努めてきた。トルコ人の分裂、内輪揉めが昨今のトルコの迷走の真因である。大統領選の結果がどちらに転んでも、負けた陣営の支持者は結果を認めないだろう。トルコが「やっと正常化する」と夢を見るのはまだ早い。