世俗派を代表するのは野党第一党の共和人民党(CHP)、国父ケマル・アタテュルクが設立した由緒ある政党だ。これまでは、主にCHP側の反クルド感情が原因で協力が進まず、またクルド側にも反CHP感情が蔓延し、統一候補を立てることができなかった。ただ、2019年のイスタンブール市長選で、クルド側がCHPの現職支持に回ったあたりから潮目が変わってきた。同盟を組まずとも選挙では妥協するという関係になっていったのだ。

今回、世俗派とクルド派は別々の陣営を組んでいるが、クルド派からは候補者を出さずCHPの党首ケマル・クルチダロールを実質的な統一大統領候補とした。クルド側も「1票はクルド政党へ、1票はクルチダロールへ」と呼び掛けている。

苦境に置かれた与党側はなりふり構わない攻撃に出ている。まずは、選挙活動に携わるクルド人の大量摘発だ。

フランス24などは2週間ほど前、トルコのクルド人地域各地でクルド人活動家、ジャーナリスト、弁護士ら110人が逮捕されたと報じた。当局は容疑を「テロ組織への資金援助、メンバーの勧誘」としているが、具体的な証拠などは示されていない。トルコでは、「政権批判」「野党に関係」といった内容だけでクルド人を逮捕することが可能なのである。

それらの記事の中でも、与党に厳しい情勢が伝えられる中での選挙対策の側面が指摘されている。これはほんの氷山の一角で、トルコ語のクルド系メディアなどでは頻繁にクルド人逮捕の見出しが踊っている。

また、こうした強権的手法を採りにくいトルコ人の野党支持者に対しては、中傷プロパガンダキャンペーンを展開している。最大野党CHPがクルド側と歩調を合わせたことから、「クルド人テロ組織と連携している」と与党支持者らにより拡散されている。ただ、今回、エルドアンに背を向ける人の多くが経済的苦境、地震対応への不満といった生活に直結した理由によることから、こうしたキャンペーンは実を結ぶに至っていない。

これはむしろ、クルチダロールが政権をとった後にこそ功を奏するキャンペーンであろう。選挙活動における暴力事件も報じられている。

日本でも”小ネタ”として報じられたが、トルコ東部エルズルムで7日、与党の牙城とされる東部エルズルムでCHPのイスタンブール市長イマモールが応援演説を実施した。この時、与党の支持者らが「投石攻撃」を行ったのである。イマモール本人は傘に守られ退散し難を逃れたが、聴衆に子どもを含むけが人が出た。その翌日の8日、クルド人地域のガジャンテプで与党が選挙集会を実施したところ、今度は彼らが野党支持者の投石攻撃に曝された。

欧米は口先では今回の選挙における「中立」を謳っているが、時代錯誤なオスマン帝国主義を振りかざし、中国に接近するエルドアンの権威主義体制の変化を歓迎している。