駐独ウクライナ大使のアンドリーイ・メルニック氏(当時)は日刊紙ターゲスシュピーゲルでのインタビューで、「シュタインマイヤー大統領はウクライナがどのようになってもいいのだ。一方、ロシアとの関係は土台であり、神聖なものとさえ考えている」と辛辣に語った。ウクライナにとって最大の経済支援国の、それも大統領の訪問をウクライナ側が断ったのだ。ドイツ側もショックを受けた(同大使は現在、外務次官だ)。

ユダヤ人のゼレンスキー大統領にはナチス・ドイツ政権の悪夢もあっただろう。ドイツに対して平静に付き合うことが難しかった。しかし、ロシアとの戦いが激しくなり、武器支援が必要となったウクライナにとって、ドイツ抜きで話は進まないこともあって、ドイツとの協調関係の構築に努力していった経緯がある。同大統領のドイツへの感情はアンビバレントだった。

ちなみに、ゼレンスキー大統領は8日、第2次世界大戦におけるナチズムに対する「追悼と勝利の日」に演説している。曰く「1945年5月8日、ドイツ国防軍の無条件降伏が発効された。5月8日は、あの戦争で命を落とした全ての人々を追悼する日だ。それはイデオロギーの混入のない純粋な歴史だ。ナチズムが打ち負かされたのと同じように、現代のロシアが復活させようとしている古い悪はすべて打ち負かされるだろう。今、80年前と同じように、ウクライナは完全な悪と戦っている。今、80年前と同じように、ウクライナは未来のために戦っている。それは、ウクライナ自身とヨーロッパ全体、自由世界全体の未来を意味する」と述べている。

ウクライナはドイツから供給されたIRIS‐T対空システムを称賛している。ウクライナ空軍長官Mykola Oleshchuk氏はテレグラムに、「2022年10月以来、IRIS‐Tミサイルシステム部門は、ウクライナ上空で60を超える空中目標を破壊した」と指摘し、ドイツの対空システムを高く評価している。

ウクライナ軍の春の攻勢を控え、ゼレンスキー大統領は戦争勃発後初めてドイツを公式に訪問する。同大統領を迎えるドイツはウクライナ戦争を通じて変わったが、ウクライナ人もドイツ民族に対する見方が変わったことを示す訪問となることが期待される。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。