実際、2023年4月のパナマにある「キャラバン」出発地では、ベネズエラ、ハイチ、ペルーなどからの「キャラバン」参加者が続々と集結して米国を目指す様子が報道された。これらの報道を受け、パナマ、コロンビア、米国は共同でパナマのダリエン地峡に通じるジャングルの道を閉鎖することを公表しているが、すでに米国を目指している人は数多くいると見られている。
米国への移民を目指す「キャラバン」の旅路は非常に過酷なものであり、死を含む多くの危険と隣り合わせだ。それでもそんな「キャラバン」への参加を決意するように人々を駆り立てるのは、どのような動機なのだろうか。以下に、筆者が実際に話を聞いた中米(ニカラグア)および紛争地の中部アフリカの事例を紹介したい。
「キャラバン」参加者:中南米最近「キャラバン」の送り出し国の一つに挙げられることも多いニカラグアで教師をしているニカラグア人の知人に同国の状況を聞いた。
ニカラグアは経済的にも厳しい状況にあるだけでなく政治腐敗が深刻であり、市民は諦めの境地にあるとのことだった。例えば、ある時その知人の自宅が空き巣に入られたので警察に通報したところ、なんと警察からは「車に必要なガソリンがないのでお宅に行けません」と、にべもなく「お断り」されたそうである。
警察に助けを求めても応じてくれないとすれば、誰に助けを求めたら良いのだろうか。知人は「もし私が『あそこの○○さんは反体制派らしい』と密告したら、警察は即座に急行するのに」と憤慨していた。
このような腐敗体制下では自国に見切りをつけ、少しでも良い状況になるのであればと考えて「キャラバン」に参加する人がいてもおかしくはないだろう。
また中南米では、ニカラグアならずとも貧困から脱却したいという経済的な動機で米国行きを希望する人も多い。例えばホンジュラスの場合、海外在住のホンジュラス人からの祖国への送金額が非常に大きいことから、政府による「キャラバン」取り締まりが甘い傾向にあるとも指摘されている。
アフリカからの「キャラバン」参加者一方、この「キャラバン」への参加者は、中南米だけではなく、遠くアフリカから参加する者もいるという。
筆者は数年前、政府軍と反政府派との間で戦闘が続いていたあるアフリカ中部の紛争地に赴き、多くの現地人と話をしたのだが、そこでの生活は大変に悲惨なものであった。
現地では紛争が激しい時期には長ければ数ヶ月にわたって戒厳令が敷かれ、その間、ほとんど外出できない状況になるのはもちろんのこと、周囲で銃撃戦が発生すると流れ弾が家の中に飛んでくるため、家の中でも身を屈めて生活しなければならない状況だったという。また焼かれた店舗も少なくなく、それらに対する政府などからの補償も一切ないとのことであった。
筆者の場合、もちろん事前の情報収集分析を行い、戦闘が少し落ち着いたとされる時期を選んで入国していたわけだが、それでも「この日は外を動くものは何であれ、撃たれても文句は言えない」と言われる日もあり、移動のタイミングには注意する必要があった。また、街中は軍の装甲車が轟音を立てて走り、町と町の間は軍や警察官の検問(および賄賂の要求)が頻繁に行われていた。その紛争地においては、これでも「落ち着いた」状況だったのである。
そんな状況に嫌気がさした住民の一部は、主に二つのルートを使って豊かな国を目指し脱出をしていた。
第一のルートは砂漠を越え、地中海を渡り欧州にたどり着くパターンだ。そしてもう一つのルートは、パスポートを持って中南米に飛行機で渡航し、そこから「キャラバン」に参加する方法である。
アフリカ圏のパスポート保持者には渡航時にビザの取得を求める国も多いが、中南米の国の中には渡航にビザを必要としない国もあるので、そういった国を目指すのだそうだ。まさかアフリカから「キャラバン」に参加する者がいるとは考えもしなかったが、いずれにせよ命懸けである。