聖霊といっても、多くの人にとって理解できないだろう。不可視であり、どこに存在するといったものではなく、あくまでも天から降臨するものだからだ。それを受けない限り、国王として神によって認知されない。油を注がれ、聖霊の祝福を受ける、このコースが戴冠式のエッセンスというわけだ。その点、米国大統領が議事堂前で宣誓式を経て大統領に就任するのとは異なっている。
キリスト教では神は「父、子、聖霊という三つのペルソナ(位格)をもっておられる」と教える。聖霊はその神の3つのペルソナの一つといえるわけだ。具体的には、聖霊は人に神への信仰を呼び起こす役割があるうえ、「助け手」でもあるから、聖霊を受けた信者が喜びで溢れるということがあるわけだ。
厳密にいえば、「戴冠式前」と「戴冠式後」ではチャールズ国王は異なった存在といえる。母親エリザベス女王が昨年9月8日、96歳で亡くなった後、国王を継承したのだから、時間と経費の無駄遣いの戴冠式を挙行する必要はない、といった批判が英国内でも聞かれたが、繰り返すが、戴冠式で聖霊を受けない限り、チャールズ国王は世俗的な国王になれても、英国国教会の首長とはなれないのだ。
今月28日はペンテコステ(聖霊降臨日)だ。イエスが復活し、40日間、弟子たちを再び集めて福音を述べ伝えた後、昇天。その10日後の日曜日、聖霊が降臨した日を祝う祝祭日だ。迫害を恐れてきた弟子たちは聖霊を受けると異言を語り、命がけの伝道に出かける。まさに、聖霊降臨前と後では弟子達は180度変わったのだ。ペンテコステを期して、「教会は始まった」といわれる所以だ。
例えば、迫害を恐れてイエスを知らないと言い逃れてきたペテロは聖霊を受けた後、逆さ十字架すら恐れない強い信仰者に生まれ変わった、という話が新約聖書に書かれている。多分、ひょっとしたら、このことはチャールズ国王にも当てはまるかもしれない、と考えた。
欧州の王室は英王室も含め、21世紀の新しい時代を生き延びていくために苦闘している。君主制を維持するか、共和制に移行するか、英国でも議論を呼んでいる。
チャールズ国王は戴冠式で聖霊を受けただろうか。国王の今後の歩みをみれば分かるかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。