張り紙だけで会社を変えた起業家
ニューヨークタイムズ紙のベストセラー作家ケビン・クルーズ。彼はある企業の社長だった頃、部下から頻繁に「ちょっといいですか?」と声をかけられて時間をとられることに強いストレスを感じていた。
そこでケビンは紙に「1440」と大きく印刷し、社長室のドアの外側に貼った。数字は1日の分数=1440分を意味していた。しかし他に何も説明を書かなかった。
部下から1440の意味を尋ねられると、時間の大切さを思い出すための工夫だと答えた。ケビンは自分自身のことを言っただけだったが、しばらく経つと飛び入りの相談が急に短くなった。
時には1440の意味を説明しただけで『それでしたら、これ以上話す必要はありません。月曜日のチームミーティングで話せばいいとわかりましたので(引用: 1440分の使い方 パンローリング株式会社 2017)』と答えた人もいた。
やがて社内で「1440分しかないから」という声があちこちで聞こえるようになった。社員達はタスクに優先順位をつけたり、不必要なミーティングの誘いを断るようになったという。
ケビンは時間を大切にしようというメッセージを示した。その点で最初の違反者になった。その後同じように行動しても怒られないとわかった社員はこぞって時間を大切にするようになったのだ。
ケビンがこうした風土を作りあげるために必要だったのは紙に1440と印刷してドアに貼ることだけだった。ちょっとした意思表示でまわりを変えることに成功したのだ。
これはケビンが社長だったからこそできたこと。そう考える読者もいるかもしれない。しかし筆者は一社員でも同じことができると考えている。
参考までに筆者が最初の違反者になった経験を紹介をしたい。
上司と同僚から返ってきた予想外の反応今でこそ筆者の職場では早く帰ることが推奨されているが、数年前、まだ働き方改革という概念がなかった頃は残業している同僚も珍しくなかった。
そんな中筆者は常々早く退社したいと考えていた。しかし多くの同僚が残業している中、課長に次ぐポストの自分だけが早く帰ることに抵抗を感じていた。当時の上司は部下が残っている時は自分も帰らないというポリシーの持ち主だった。このことも抵抗を感じる理由の一つだった。
しかしある時、意を決して上司に早く帰りたいと自分の気持ちを打ち明けてみたことがある。筆者は全否定されると思いこんでいた。しかし意外にも返ってきた回答は仕事さえきちんとやれば問題ないというものだった。
その後上司のアドバイスもあり部下に同様の話をした。予想に反し好意的な反応がほとんどでびっくりしたのを覚えている。子供が小さいうちは家族との時間を大切にしたほうがいいと言ってくれた人もいた。