
teruo takahashi/iStock
先日Yahoo!ニュースでタバコ休憩に関する記事が話題になっていた。記事の内容は昨年12月に元迷惑系YouTuber・へずまりゅうが「喫煙者の方が休憩を多くとっており不公平ではないか?」と投稿したことに触れ、喫煙者と非喫煙者の双方に話を聞くというものだった。
当時コメントも多数つきタバコ休憩の賛否が議論になっていた。この記事に限らず、日本ではタバコ休憩に関する議論が絶えない。
なぜタバコ休憩はこれほどまで議論になるのか。その本質を紐解くと、日本の働き方改革が思うように進まない理由と同じ問題が浮き彫りになる。
タバコ休憩と働き方改革に共通する日本の問題点・課題は一体何なのか。
著名な経営コンサルタントが日本の大企業に勤めていた頃、会社の人間と衝突したエピソードを皮切りに、より良い働き方を追求する時短コンサルタントの立場から考えてみたい。
「あれはなんだ?」と言い返した大前研一氏英国エコノミスト誌でピーター・ドラッカーと並ぶ思想的リーダーと称された経営コンサルタントの大前研一氏。彼は日立製作所に勤務していた頃、勤労課の人間としょっちゅう衝突していた。
仕事は原子炉の設計だった。仕事中眠くなって裏庭を散歩していると、勤労課の人間に席に戻るように注意された。
新しい設計や発想をするために考えごとをしていると伝えても、みんな自分の机で仕事をしているからという理由で机に戻るように言われた。当時は変な時間にトイレに行くだけで「休憩時間に行ってください」と注意されることもあった。
コーヒー抽出機を持ちこんでコーヒーを楽しんでいたら勤務中にコーヒーを飲むのはおかしいと注意されたこともある。「火気厳禁と書いてあるじゃないか」などと言われ、タバコを平然と吸っていた課長を指さして「あれはなんだ?」と言い返した。
その後、大前氏が会社を辞める頃には職場のいたるところでコーヒーの湯気が上がっていたという。このことをふまえ大前氏は『日立での2年間で「学んだ」こと(PRESIDENT Online 2012/05/28)』で次のように書いている。
こっぴどく叩かれるから、最初の違反者にはなりたくない。でも怒られないと分かるとこぞってやりはじめる。日立時代は日本企業の組織の本質やサラリーマンの集団心理を学んだ2年間でもあった
大前氏のこの発言はタバコ休憩の議論の本質を紐解く鍵になる。説明していきたい。
タバコ休憩と単なる休憩は何が違うのか?タバコ休憩に関する議論を見ていると、匂いが不快という点を除けば業務時間中に休憩を頻繁に取ることの是非が論点になっていることが多い。
ファミリーレストランを運営するすかいらーくは喫煙による周囲の社員の健康被害、いわゆる受動喫煙による健康被害を考慮して、社内はもちろん勤務先周辺での喫煙まで禁煙とした。2019年にこのルールが開始された際には大きな話題となり法的な妥当性まで論じられたが、ここまで厳しいケースはかなりのレアケースだ。
たとえばYahoo!ニュースのタバコ休憩に関する記事のコメント欄には、タバコ休憩だけ黙認されていてズルいという趣旨のコメントも多い。一方で仕事で成果さえ出していれば(常識の範囲内なら)別にいいのではないかという趣旨のコメントも多数見られる。
筆者はタバコは吸わないしむしろ嫌いだが、こうしたコメントを見ているうちに一つの疑問を感じた。それはタバコ休憩と単なる休憩は何が違うのだろうか?というものだ。
たとえば業務時間中に席を立ち、近くの窓から外の景色をしばらく眺める。この行為はタバコこそ吸っていないが、タバコ休憩と本質的になんら変わらないのではないだろうか。
そうするとタバコ休憩が黙認される職場であれば同じ頻度で休憩を取っても問題ないということになる。
大前氏がそうだったように、ある程度の休憩は創造性や生産性にとって必要なものだ。非喫煙者で「タバコ休憩がズルい」と言う人は、自分もタバコ休憩と同じ頻度で休憩を取ればいいのだ。
そしてもし上司から文句を言われたら、大前氏ではないが、タバコ休憩と何が違うのかと問いただしてもいいはずだ。
しかし、実際には多くの人がそうしない(できない)。その理由は、大前氏の言う「最初の違反者になりたくない」という日本企業の本質・サラリーマンの集団心理が働いているからだろう。タバコ休憩問題の本質はタバコそのものではなく、まさにこの部分だと言えるのではないだろうか。
大前氏と勤労課が議論したコーヒーも、大前氏が会社を辞める頃には職場のいたるところでコーヒーの湯気が上がっていた。仕事中の休憩も、職場の誰かがはじめれば当たり前になる可能性も十分ある。
しかし、職場で休憩を自由に取るために大前氏のように会社の人間と言い争うのは現実的ではないと感じる読者も多いだろう。
この点について、職場の慣習を変えるのには必ずしも争う必要まではない、というのが筆者の考えだ。ちょっとしたことで会社の風土を一気に変えることもできたりする。ここである起業家のエピソードを紹介したい。