御年87歳の「投資の神様」が、過去の投資の大失敗である米総合エネルギー大手コノコフィリップス、米小売り大手ウォルマート、米靴製造大手デクスター・シュー・カンパニーなどに次ぎ、新たな「失敗」を認めたのではないかと話題になっている。

世界最大の米投資会社バークシャー・ハサウェイの最高経営責任者(CEO)のウォーレン・バフェット氏は2017年5月最初の週末に、生まれ故郷の米中西部ネブラスカ州オマハで開かれた毎年恒例の同社株主総会に「降臨」した。

米ロックの大祭典ウッドストック・フェスティバルに例えて「投資家のウッドストック」と呼ばれる総会で同氏は、「6年前の2011年に大量に仕込んで、その後も買い増しを続けてきたIBM株のうち、3000万株を売却した」と明らかにした。その後のインタビューでは、「IBM株への見方を下方修正した」と述べている。

なぜ「オマハの賢人」との異名をとるバフェット氏は、一部のIBM株を手放すことを決意したのか。それを知るためには、彼の2011年当時の目論見と、テクノロジー分野でこの6年間に起こった急激なチェンジの文脈におけるIBMの立ち位置の変化、そしてバフェット氏のテクノロジー株に対する考えの「進化」を振り返らなければならない。

バフェット氏の三重においしい投資の目論見が外れた?

広く知られているとおり、バフェット氏は長年、テクノロジー株を避けてきた。「よくわからないものには投資しない」というポリシーを貫いてきたからである。だから、そのバフェット氏がテクノロジー分野のIBM株を大量取得し、買い増し続けたことで、市場は大変驚いたものだ。

2011年に株主に宛ててしたためた書簡のなかでバフェット氏は、「2010年の3月のある土曜日に突然、IBMに対する具体的な投資の目論見が鮮明に浮かんだ。それまで50年以上にわたりIBMの年次報告を読んできたが、何も感じなかったにもかかわらずだ」と回想し、投資プランが直感的なものであったと明かした。

バフェット氏は2011年にIBM株を、1株あたり170ドル近辺で110億ドル相当6400万株を仕込んだ。発行済み株式の5.5%に当たる。

これには非常に重要な前提があった。IBMは当時、営業活動によるキャッシュフローの80%以上を配当の支払いと自社株の買い戻しに充当していた。この高配当と自社株買戻しの継続が、バークシャー・ハサウェイに高収益をもたらす両輪とされたのだ。

配当に関しては当時IBMが独占的市場シェアを誇ったクラウドサービスなどが伸びることが予想され、IBMが借金をして自社株を買い戻すほど、バークシャー・ハサウェイのIBM持ち株比率が相対的に上がり、受け取る配当もそれに合わせて上がる仕組みだった。

バフェット氏は同社株が300ドルの大台に乗せると予測したため、その目論見が当たれば、IBMは彼にとり(1)高配当、 (2)持ち株割合増加、(3)株価高騰で三重においしい投資となるはずだった。

投資家向け情報誌『バロンズ』はこれを評して、「IBMは借金をしながらバークシャー・ハサウェイに配当を支払う借り入れマシーンと化した」と皮肉った。IBMに利益を吐き出させるだけ吐き出させた後、「5?10年後に売る」というバフェット氏のプランは、少なくとも当時は合理的に見えた。

低迷するIBMの株価と買い増し

だが、バフェット氏の目論見は外れた。IBMのクラウド事業はアマゾンやマイクロソフトという強力な競合相手を前に、冴えない業績が続いた。それに合わせて株価も低迷、2015年夏には150ドル台まで落ち込んでゆく。だが、バフェット氏はなお強気だった。

経済専門局CNBCのインタビューで、「IBM株が下がるのは、大好きなんだ。我が社が安値で買い増しできるじゃないか。今は売らない。5?10年後に高値になったらそうするかも知れないがね」と上機嫌で語ったものだ。事実、「安値の優良株を大量に買う」方針を堅持するバフェット氏はIBM株の取得を続け、最終的に2016年末で8100万株、発行済み株式の8.5%、135億ドル相当を保有するようになった。

だが、株価は170ドル台、180ドル台と、一向にバフェット氏が想定した300ドルには遠く届かない。またIBMはここ数年、自社株買いよりも配当増大に力を入れるようになり、思惑が外れた。

そうこうするうちに、IBMのビジネス自体がアマゾンやマイクロソフトに浸食され、4月には格付け機関のムーディーズがIBMの格付けを「Aa3(ダブルエースリー、最高位から4番目)」から「A1」へと1ノッチ引き下げた。ある程度の損切りが必要なことは、どの投資家の目にも明らかになったのである。バフェット氏は株価が170ドルの取得価格を上回る180ドルを超えたところで、一部を売却して、損失を回避した。IBM株は現在150ドルあたりで推移している。

バフェット氏のIBM株投資は失敗ではなかった

とはいえ、バフェット氏は未だに5100万株、発行済み株式の6%という大量のIBM株を保有し続けている。これは2011年の保有数より若干少ない程度だ。自身がIBM株の評価を下方修正したことで、株価から「バフェット・プレミアム」が落し始めたにもかかわらず、なぜ全量を処分しなかったのか。

CNBCの番組に出演したバフェット氏は、「これ以上は売らないと思う。再び買い増すかも知れない」という、謎めいた答えをしている。パフォーマンスに失望を表明したものの、IBM株への投資が失敗だったとは言っていないし、これ以上は処分しないと述べるだけでなく、買い戻しの可能性にまで言及している。これは明らかに長期保有のパターンだ。

バフェット氏の「進化」 テクノロジーを買え

ここで想起されるのが、バフェット氏が株主総会やインタビューで語った、自身のテクノロジー株に関する考えの「進化」だ。彼は、「失敗した。(時価総額が驚異的に大きくなった)アマゾンの投資機会を逃した」「バークシャー・ハサウェイ子会社の保険大手ガイコが広告出稿でグーグルを儲けさせていたが、グーグルの可能性にその時気付くべきだった」と率直に語り、テクノロジー株を全面的に認知した。

さらにバフェット氏は、アップルが消費者向けビジネスを展開するところが企業相手のIBMのビジネスと違うと指摘し、バークシャー・ハサウェイが大量に取得したアップル株の将来性に楽観的見方を示した。

こうして見ると、バフェット氏は消費者型のテクノロジー株を最上の投資とみなす一方、企業向けサービスを提供するIBMなどのテクノロジー銘柄に対しても、以前から公言している「5年から10年後には化ける」という信念を変えていないように映る。IBMについては5年では期待に達しなかったが、あと5年待つというニュアンスが感じられる。

170ドルで仕込んだIBM株で多額の配当を得た後、180ドル以上になった時に3000万株売却したのだから、大成功とは言えなくても、絶対に損はしていない。そして残りはあと5年粘ってさらなる利益を目指す構えか。テクノロジーに関して「変節」しても、バフェット氏の長期的な投資眼は変わっていない。

文・岩田太郎(在米ジャーナリスト)

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