それでは、なぜロシアは非現実的だと考えている提案をあえてするのか。理由は明確だ。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相の代表団は、4月24日と25日の安保理のイベントに参加するためにニューヨーク入りする予定だったが、米国側はビザ発行を遅らせたうえ、ロシアのニュースメディアの代表者にビザを発行しなかったからだ。米国は今回の対応について何も説明していない。ラブロフ外相は、「米国はわが国に怯えている。わが国は米国の今回のやり方を忘れたり許したりしない」と米国を脅迫している。同外相の怒りがニューヨークに本部を置く国連を「もっと中立な場所に引っ越しすべきだ」という提案になったのだろう。
ラブロフ外相は24日、「効果的な多国間主義」に専念する安保理セッションの議長を務めたが、「不従順な者を罰することによってその優位性を主張しようとする絶望的な試みの中で、米国はグローバリゼーションを破壊しようと動いている。現在、米国とその同盟国は、彼らに異議を唱える者をブラックリストに載せ、我々と一緒にいない者は我々に反対していると世界に告げているが、欧米の少数派に全世界を代弁する権利はない」と熱弁をふるっている。
ラブロフ外相は国連改革にも言及し、「西側諸国は国連の事務局やその他の国際機関を乗っ取ることで、国連を服従させるために厚かましい試みを行っている」と指摘、「真の多国間主義は、国際関係における多極化に適応することだ。安保理はアフリカ、アジア、ラテンアメリカの代表を増やすべきだ」というのだ。
ラブロフ外相は安保理の改革に言及していたが、国連機関が紛争解決に無能なのは多国間主義が機能しいないためではなく、常任理理事国のロシアと中国が拒否権を行使し、紛争解決を阻止しているためだ。ロシアは昨年2月24日、ウクライナに軍事侵攻し、多数の民間人を殺害してきた。ロシアの行動は誰が見ても主権国家への侵略であり、国連憲章の精神を蹂躙している。それを棚に上げ、ラブロフ外相は欧米諸国を非難している。本末転倒だ。
ちなみに、将来の国連本部の候補地に挙げられたウィーンとジュネーブはロシア外務省の提案に対して沈黙している、というより無視している感じだ。ロシアは国連機関の機能解決には関心はなく、自国の権限維持にあることが見え見えだからだろう。

プーチン大統領 国際連合本部 外務省HPより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。